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第14話

 ビックリする陽向と、顔をあげた上城の視線があった。とたんに、上城の顔がしまったというように強張る。陽向は見てはいけないものを見てしまったのかと、パッと顔をそらした。 「アキラ、おしぼり」 「あ、はい」  アキラがシンク横のタオルウォーマーから、温かいおしぼりをひとつ取りだして手渡す。上城は泣いている女性にそれを渡して奥のソファに移すと、対面で腰かけてふたりで何やら話しはじめた。  陽向はそちらが気になりつつも、さりげないふりでビールを飲み続けた。アキラも客に配慮してか何も言わない。上城が小声でぼそぼそと話して、女性がうんうんとうなずいているようだった。  やがて女性客が腰をあげて、上城に挨拶をして帰っていった。最後には少し笑顔を見せて。  そして店内は三人だけになった。 「……」 アキラがグラスを麻布で拭きつつ、そっと言った。 「大変っすね」 「うまく断れたと思う」  いささか疲れ顔で、上城がこぼす。それから、陽向に視線を向けてきた。その目が、どうやって説明しようかと困っている様子だったので、陽向は片手をあげて先制した。 「いや、俺、大丈夫ですから」 ニッと笑顔を作ってみせる。 「アキラさんから聞いてます。だからわかってます。大変ですよね。俺のことは気にしないでください。上城さんのことも信じてます。何も疑ってもいません」  仕事柄、仕方のないことなのだろう。理解できたから、ちゃんと笑顔になれた。本当は、ほんの少しだけ複雑な心境ではあったが。  上城は陽向の明るい言い方に、ほっと表情を緩ませた。けれどその内心の不安も読み取ってはいたのだろう。カウンターの横に来ると、陽向の頬をちょんと指でつまんできた。 「ありがとうな。そう言ってくれると助かる」  いつもの目元を和らげた笑顔になったので、陽向も安心した。 「お前のそういう男らしいところが、俺は好きなんだよ」  ハッキリのろけたので、アキラが「っっとぉ」と声をあげて、グラスを落としそうになった。  「ラブラブっすねぇ。これならどれだけ美人に迫られても小池さんは安心ですね」  ニヤリと笑って冷やかしてくる。 「お前は黙って仕事してろ」  上城が、無駄口たたくなというように叱った。  けれどもう、陽向は知っている。こういう言い方をするときは、怒っているわけではないのだ。顔にはださないが、実は照れているのだと、アキラも自分も分かっている。

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