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第13話

「ここのところ、お宮通りも看板変えてきれいになったから、女性がひとりでも来やすくなったんですよ。それでザイオンも女性客が増えて。みんな上城さん目当てなんですけどね。で、アルコール入ると酔いに任せて告ってくる人もいるんです。上城さんに」 「そうなんですか」 「しつこくアタックする人もいて、けど、お客さんだからあまり邪険にもできないじゃないですか。それで、これ飾っといて、俺が時々、お客さんに『上城さんの恋人が手作りしたんすよ』とけん制しとくわけ」 「はあ……なるほど」 「それでも、あの人はモテるから構わず迫ってくる人もいるんですけどね。まぁ、そういう訳で、飾ってるんです」  アキラは身を起こすと、ふふっと続けて笑った。どうやらあの隕石が、上城の身を守ってくれているらしい。 「手作り、いいじゃないですか。愛がこもってて。俺も欲しいなあ、手作りのケーキ」 「あんなんでよけりゃ今度、作りましょうか?」 「いやそうじゃなくて」  アキラは手を振った。けれど別に羨ましそうでもない。それで思いだした。アキラは桐島と付き合いだしたはずだ。 「アキラさんも、もらったんじゃないですか、チョコ」  水を向けると、アキラはにへらっとだらしない笑顔になった。 「ええ、まあ、えへへ」 「桐島から聞きましたよ」 「えええ、まじですかあ。彼女、小池さんに言っちゃったんだあ」  めちゃくちゃ嬉しそうにして、髪をかく。 「よかったですね」 「ええ、頑張って口説き落としたかいがあったというか。へへへ」 幸せそうな様子に、陽向も笑顔になった。  それからアキラは上城が戻るまで、延々とのろけ話をしゃべり続けた。最近車を買ったこと、来週一緒に隣県のアウトレットモールまで買い物に行くこと、車種とカラーは彼女に選んでもらったこと。やっぱり馬のままだ、と思ったが黙って微笑むだけにしておいた。 そうしている内に、扉があいて上城が戻ってきた。 「あ、こんばん……」  わ、と言おうとしたら、上城に続いて女性客がひとり入ってきた。陽向と同じくらいの歳の可愛らしい人だ。彼が中に入るように促したところを見ると、どうやら今まで一緒にいたらしい。戸口で偶然会ったという雰囲気ではなかった。しかし陽向の目を引いたのはその可愛らしさだけではなかった。  女性客は泣いていた。目を真っ赤にはらしてハンカチを口元にあてている。

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