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第1話 茜の光に輝くモノ

「調教開始だ」  山本が発したそのひとことで、その場にいた野郎共は一気にヒートアップしやがった。  変な奇声を上げながら、俺の顔を、腹を、手足を殴り、床に突っ伏した俺の身体を踏みつける。  何が調教だ。集団リンチじゃねーか。  『もう止めてくれ』  って言葉が口から出かけて、奥に引っ込む。  痛くて口が開かなかったのもある。  でもそれ以上に、こんなクソ野郎に謝るなんて、俺のプライドが許さなかった。 「無様だな新堂。さっさと謝っちまえよ。そうすりゃ許してやるからよ」 「……くたばれクソが……」 「……まだ調教が足りなかったみたいだな。おい」  山本の合図で、取り巻き共の暴行が再開された。  もう自分が何されてるかも分からないくらい、感覚がマヒしてきた。  殴られてるはずなのに痛くない。……俺……マジでヤバイかも……。  感覚と一緒に、意識が段々と薄れて……。  …………。 ◆◆◆◆◆  茜に染まった空が目の前に広がっていた。  ……あれ……俺……何して…………?  起き上がろうとすると、全身に痛みが走る。全身が痛くて熱い。  ……ああ、そっか。俺、山本たちにやられて……。 「新堂くん目が覚めた? 大丈夫?」  茜の空を遮るように、俺の顔を覗き込む影がある。  逆光で顔はよく見えないけど、この声は間違いない。 「貴仁……情けないとこ見せちまったな……」 「そんなことないよ。新堂くんは僕のために……。……ハンカチ濡らしてきたから顔に当てるね。ちょっと染みるかもしれないけど……」  ひやりとした感触が頬に当たって気持ちいい。このぶんじゃ顔がぼこぼこに腫れ上がってるんだろうな。クソ……あいつら好き勝手やりやがって……。 「……助けてもらってこんなこと言うのはおかしいかもしれないけど、山本くんに謝って、もう僕に関わらないほうがいいよ」 「ハァ!? このまま泣き寝入りしろってのか!?」  身体にムチ打って起き上がり、貴仁を睨み付けると、貴仁はぼろぼろと涙を流していた。 「……なんでお前が泣くんだよ」 「だって……このままじゃ、僕のせいで……新堂くんまでイジメの標的にされちゃうって……」  空を染める茜色は存在を増し、もうすぐ訪れる夜の気配を色濃くしていた。  夕日を反射しキラキラと輝く貴仁の涙の前に、俺は……なにも言えずに、ただその場に立ち尽くすことしかできなかった。

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