4 / 4

最終話 陽射しの中で輝くモノ

「新堂くん……なにやってるんだよ!? もうかかわらないでって言ったのに!」  すごい形相で俺に詰め寄ってくる貴仁に、頭の理解が追い付かない。 「僕は……僕が山本くんと一緒にいたいからいるんだ! 邪魔しないでよ!」 「…………は?」 「まあ、そういうことだ」  にやにやと笑いながら話す山本に、苛立ちが集っていく。 「そういうことってどういうことだよ」 「簡単に言えばな、なんだとよ」  その山本の言葉に、頭が真っ白になった。 「前に告られてな。俺はホモじゃねーから断ったんだけど、どうしても傍にいたいって言うからいさせてやってんだよ。そうだよな森本」  こくりと頷く貴仁の姿が、目に焼きついた。  イジメなんかじゃなく……殴られても、疎まれても、それでも貴仁が自ら望んで……?  それじゃ、俺がやったことは、ただの迷惑……だった、のか……? 「もう用件は済んだだろ? 俺はもう帰るぞ」  山本と共に去って行く貴仁を、俺はただ見送ることしかできな――。  いや、違う。  違う! 「待て!」  足を止めたふたりが、ゆっくりと俺を振り返る。 「貴仁! 違うだろ!? 本当に山本が好きなら、なんであのとき泣いたんだ!?」  茜に輝く貴仁の涙が、俺の脳裏に鮮明に映っている。  もし本当に現状に満足しているなら、あんな涙をこぼすはずがない。 「そ、それは……」  目を泳がせ言いよどむ姿に、貴仁の本心を見た気がした。  だから俺は止まらない。ここで止まっちゃダメだ。  手放したくない者に気付いたんだから。 「俺が一緒にいるから……だから、山本から離れて俺と一緒に来い!」 「どうして君が、こんな僕なんかと……」  頭にはいろんな理由が浮かんだ。  でも、結局、答えはシンプルだ。 「俺がお前を好きだから」  真っ直ぐに、貴仁の瞳を見て告げる。  貴仁も、じっと俺を見ていた。 「マジか? お前もホモだったのかよ? 俺の前でそんなこと口にしていいのかよ新堂。噂になって明日から学校に来れなくなるぞ」  山本のにやけ顔にはもう飽きた。今はそんなことどうでもいい。俺にはもっと大切なことがあるんだ。 「勝手にしろよ。そんなくだらねーこと気にして、を手放すほうが、俺はずっと嫌なんだよ」 「……くっさ……。見てるこっちが恥ずかしくなってくるぜ。森本、お前もう俺に関わるなよ。お前が来ると、この周りが見えないバカ野朗も付きまとって来そうだからな」 「え、でも……」 「ホモはホモ同士仲良くやってろ。誰にも言わないでおいてやるから、勝手にな」  手をひらひらと振って、山本は姿を消した。  残されたのは、俺と貴仁。そして、焼けるような熱い陽射し。 「……新堂くん……」 「昔みたいに、勇人って呼んでくれ」 「……うん。勇人くん……君はバカだよ。こんな僕なんかのために、学校生活を棒に振ったかもしれないのに……」 「俺がこうしたいからしただけだ。お前が好きだって気付いちまったから、止められなくなった」  貴仁は目を伏せ、じっと下を向いてしまった。 「……山本くんは、嫌だとか気持ち悪いとか言っても、傍にいるのを拒否しなかったんだ。受け入れてはくれなかったけど、僕の性癖を否定しなかった。だから僕は……」 「山本のことはどうでもいい。過去もどうでもいい。俺が聞きたいのは、今のお前の気持ちだ。俺はお前が好きだ。お前は……俺のこと、どう思ってる?」  口を震わせながら、小さな、本当に小さな言葉が紡がれる。 「……本気にしてもいい?」  貴仁の瞳から、大粒の涙がぼろぼろと零れ落ちた。  焼けるような陽射しをキラキラと反射させ、流れ続ける。  茜に染まった悲しい涙とは正反対の、温かく熱く心の叫びのような涙が。  そんな貴仁が可愛くて、愛しくて、華奢な身体をそっと抱きしめた。  夏の陽射しに照らされた影が重なり、くちびるが少しだけ触れ合い、離れていく。 「僕も……僕も……ずっと前から……勇人くんが転校する前からずっと好きで……。でも、もう逢えないって思って……ごめんなさい」 「気付いてやれなくてごめん。でも、まだ遅くないよな。貴仁、俺と……付き合ってください」 「……はい」  離れたくちびるが、再び重なった。  遠く離れた期間を取り戻すように、深く熱く。  この熱さは陽射しにも負けていない。    不意にチャイムが鳴った。  まるで、俺たちふたりを祝福する鐘の音のように。 END

ともだちにシェアしよう!