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同僚の本当の秘密~1/3~
ハットが置かれたローテーブルのすぐそばに、腰より少し低い程度のテーブルがもう一つ置かれている。
本来はその位置ではなくベッドと向かい合わせに置かれていた物だったが、工藤が部屋の中心へと動かしたのだ。
ホテルの部屋に備え付けられた何の変哲もない木製の四つ足のテーブルは、今や奴隷の展示台と化していた。
ふらつく足取りでホテルに戻ってきた雛木を待ち構えていた工藤は、開口一番こう言った。
「自分が何をしたかわかっていますね?服を全て脱いでそこのテーブルに上がりなさい」
俯いて手早くスーツを脱ぎ、いつものように畳んだりハンガーにかけたりする間もなく、全裸でテーブルによじ登る。
言い訳一つできはしなかった。
バスタオルが二重に敷かれたテーブルの上で、雛木は正座して頭 を垂れた。
「仰向けになって、足の裏同士を合わせなさい」
謝罪の言葉を口にする猶予すら与えて貰えず、雛木は目に涙を浮かべながらテーブルの上で仰向けになる。
他の男の前で悶えたせいで酷い状態になっている性器を見せるのが心苦しくて、雛木は申し訳程度に両手で股間を覆い、足の裏を合わせた。
左右の足の裏を互いにぴたりと合わせると、否応なく膝頭が開き、股間が丸出しになってしまう。工藤の命令に従いたい気持ちと、はしたない股間を見せたくない気持ちで、割り開かれた雛木の内腿は目に見えてブルブルと震えていた。
工藤は雛木の両足の甲を麻縄でぐるぐると巻いて結び目を作った後、膝頭を挟むように膝下と膝上に麻縄を巻き、テーブルの下を通してから反対側の膝にも同じように巻きつけた。
ぐっと縄を引かれると、両膝がテーブルに無理矢理引き寄せられ、更に開脚が深くなる。
工藤と出会ってからかなり体が柔らかくなった雛木ではあったが、これだけ開かされるとさすがに股関節が悲鳴を上げていた。
だが、膝がテーブルに付くほどまで股を割られても、雛木は歯を食い縛って痛みを堪えた。
「両手は頭の上に」
股間を隠そうとする雛木の意思などお構い無しに事務的に命じられ、しおしおと両腕を持ち上げる。工藤は雛木の股間を冷たい瞳で一瞥すると、無抵抗に投げ出された左右の手首に麻縄を巻き、引っ張り上げてから真下に位置するテーブルの足にそれぞれ結び付けた。更に、体が動かないようにウエストにも縄が回され、テーブルに固定される。
つい先程他の男の前で絶頂しようとした雛木は、テーブルに固定され、その罪深い身体を主人の前に余すところなく晒すことになった。
足で菱形を作る開脚は、まるで蛙のようでみっともなく、節操の無い奴隷にふさわしい。それに万歳の形に上げた腕まで加われば、それはもう情けない格好となる。
見せしめの意図が強い醜い縛り方をされ、雛木は工藤の怒りを感じざるをえなかった。
ハットとコートを脱いだだけの美しいスーツ姿の工藤の前で、こんな見苦しい姿で裁きを待たなければならないような罪を、雛木は犯してしまったのだ。
大切なコックリングを見られたくなくて、馬越に仕方なく調教済みの胸を見せたことも、とっさに女だと嘘をついたことも、雛木は包み隠さず工藤にメールで報告していた。今日職場で話してもまだ女だと信じているようだったと報告すると、工藤には何か考えがあるのか、馬越君を呼び出して口外しないように念押ししておきましょうという返事が届いた。
雛木は驚いたが、もちろん工藤のすることに否やはない。だが、≪もっと早くその馬越君とやらのことを話して下されば、こんなことにはならなかったかもしれませんね≫という一文が、工藤の不興を感じさせて雛木の心を重くしていた。
夜の早い時間に待ち合わせたホテルで挨拶を交わした工藤は、いつも以上に柔和な微笑みを浮かべていた。
「あなたの身体を他人に見せられない物にした責任は全て私にあります。あなたの社会的立場を守るために手段は選びませんから、安心してくださいね」
頼もしい言葉にうっとりする。
あなたの奴隷であり続けるためなら、自分の社会的立場などどうなっても構わないのだと言いたいが、さすがにそれは重過ぎるかもしれないと言葉を飲み込んだ。
が、続けて
「とはいえ、もう一度馬越君に見せると承諾したのは軽率ですよ。罰としてあなたは少し恥ずかしい思いをしてきなさい」
と微笑んだまま言われ、ゾクリと震える。
「は……い。申し訳ありません。よろしくお願いします……」
工藤の言う『少し恥ずかしい思い』が『少し』どころではないことは容易に想像がついて、心臓とアヌスが同時にきゅっと締め付けられた。
工藤が提案してきたのは、馬越に乳首を見せ、その様子を隠し撮りしておくというものだった。そんなことが保険になるのかと首を傾げる雛木だったが、自慰をするまで昂ぶらせたなら合格ですと言われ、なるほどと合点がいった。
馬越が雛木を女だと思っているかどうかに関係なく、男の乳首を見た後に自慰をしているという映像が撮れれば、それは確かに大きな弱みを握ることになる。とはいえ、同僚を陥れる罪悪感はやはり拭えない。
「馬越は調子のいい奴ではありますが、約束は守る男だと思うんですが……」
と控えめに庇ってみたが、
「あなたの裸に興味を示し、もう一度乳首を見せろなどと迫っている時点で有罪です」
とにべもなく却下された。あげく、
「あなたへの罰も兼ねていますからね」
と言われればぐうの音も出ない。
「危険が及ばないよう、私とレイで見ていてあげますから」
美しく不可思議な雰囲気の、工藤にレイと呼ばれるバーのマスターの顔が思い浮かぶ。艶やかでいながらどこか悪夢を思わせる微笑みを浮かべるあのマスターを、工藤は以前「旧友だ」とだけ紹介してくれた。
工藤に何度か連れて行ってもらった狭いバーの奥には、シンプルな応接セットのみの部屋から専門ホテル顔負けのSM器具を揃えた部屋まで、複数の個室が隠されていることを雛木も実体験で知っている。そして、どの部屋にも防犯用の隠しカメラがあることも。
工藤とレイに見られながら馬越を誘惑するのだと思うと、想像しただけで羞恥と罪悪感に心が焼き切れそうだった。だが、それが罰だと言われれば従うしかない。
それから時間をかけて綿密に打ち合わせた後、馬越を誘惑すると改めて約束を交わし、誓いの証として工藤の美しい手の平に口付けさせてもらった。
「では、馬越君に会う準備をしましょう。ペニスを見せてご覧なさい」
いきなり口にされた直接的な単語での命令に、身体中を歓喜が走り抜ける。
「はい。今すぐに」
ジャケットをハンガーにかけ、いそいそとスラックスも脱ぐ。
工藤が今日の逢瀬をどう思っているのかわからず、雛木は朝ギリギリまで悩んだ末、シンプルな白いTバックを穿いて家を出た。いやらしすぎず、清楚すぎないはずと思って選んだ下着だったのだが、柔らかい綿の生地ではコックリングで縊り出された性器を押さえ込むことができず、常にもこりと盛り上がってしまう。股間が目立ちすぎると気付いたのは、通勤電車の中でのことだった。
思い返してみれば、この下着は工藤にコックリングを贈られてからは一度も穿いていない。以前であれば性器はしっかりと納まっていたが、リングで絞られて玉も棹も前に飛び出してしまっている今は、その柔らかい生地が心許ないことこの上なかった。
Yシャツまで脱いだところで、このTバックも脱ぐべきか、ずらしてその中を見せるべきか悩み、ちらりと背後の工藤を振り返る。
工藤はこちらを見てはおらず、いつもの革のボストンバッグを探り、取り出した道具をローテーブルに置いているところだった。
期待を抑え切れずに盗み見ると、黒い革ベルトがついた透明な筒状の道具が置かれているのが目に入った。
工藤が用意してくれる未知の道具は、いつでも雛木の胸を期待と一抹の不安で高鳴らせる。馬越を誘惑しろと命じられ、欲望と羞恥にかなり膨らんでいたペニスは、拘束を予感させる道具を目にして更に固く勃起してしまい、コックリングが痛いほど食い込んだ。触れられもしないのに乳首も性器も張り詰めてしまい、インナーのタンクトップとTバックを突き上げている。
既に幾度となく工藤の前で裸体を晒している雛木ではあったが、今は下着を脱ぐのが躊躇われた。工藤に嫉妬して貰えるとは思わないが、自分の所有物が他の男に勝手に乳首を見せたのはどちらかといえば不愉快だろうし、はっきりと軽率だと非難されてもいる。何より、馬越に会う準備をするのに勃起させているのは、あらぬ誤解を招きそうだった。
だが、問われてもいないのに言い訳から始めるのは、どう考えても奴隷の取るべき態度ではない。
雛木は透け感のある薄手のタンクトップと、今にも性器がはみ出しそうなTバックを身につけたまま、申し訳なさそうに両膝をついて、工藤を見上げて次の言葉を待った。
「まだ何もしていないというのに、そんなにして。最初から勃起させていなさいと命じた覚えはありませんよ」
振り返った工藤は、雛木の股間を一瞥するなり、やはり冷たい声音で非難した。
「今すぐにそのはしたないペニスを萎えさせなさい」
びくりと体を竦ませ、両手で股間を覆い隠すが、工藤の声で「はしたないペニス」と叱られれば、どうしたって体はもっと熱くなってしまう。
なんとか興奮を抑えようと工藤の顔から視線を外し、その足元に視線を落としてみたが、艶のある焦げ茶の革靴が目に入ってしまって逆効果だった。
――あぁ、踏んでほしい。はしたないペニスを、踏みつけて罰してほしい。
靴裏の感触を思い出した途端、遂にペニスが綿の布地の脇からぼろりとはみ出した。焦って戻そうとすると、今度は玉まではみ出してしまう。みっともない上萎えさせろという命令に背くことになって狼狽する雛木とは反対に、工藤はいくらか気をよくしたようだった。
「主人の靴を見ただけで勃起してしまう奴隷には酷な命令でしたね。手伝って差し上げますから、シャワールームに来なさい」
背を向けて歩き出した工藤を慌てて追いかける。
「主人の靴を見ただけで勃起する奴隷」と改めて言葉にされると、自分は本当に変態だなといっそ感心してしまう。そんな変態のマスターでいてくれる工藤に深い感謝の念を抱くと共に、その言葉を心の中で何度も反芻して更に興奮が高まってしまった。
「足を肩幅に開いて、こちらを向いて立ちなさい。……両手は頭の後ろで組む」
シャワールームに着いても、尚も股間を隠そうとする雛木に、厳しい口調で命令が下された。雛木は震える息を吐きながら、そろそろと両腕を頭の後ろに回す。下着から滑稽にはみ出した性器を見せるのは、全裸になるよりどうにも恥ずかしい。
興奮した体を明るいバスルームの照明に晒した雛木に、工藤の手で氷のように冷たいシャワーが浴びせられる。
薄い下着は、あっという間に透けてその下の熟れた肢体を露 にした。
胸と股間を重点的にシャワーで濡らされ、透けた下着越しに恥ずかしい場所ばかりが色濃く浮き上がる。冷たさに更に固く凝った乳首が濡れた布を纏ってぷりぷりと突き出している様子は、自分でも赤面するほど卑猥だった。
股間でははみ出した玉の皮が突然の冷水に縮み上がりはしたが、ペニスはいまだTバックが伸びてしまうのではないかと思うほど張り詰めたままで、先端は左足の付け根辺りの布地から覗いて血管を浮き上がらせている。いつもは大切に隠されているコックリングもはっきりと透け、そこに刻まれた文字すら読み取れそうだった。
「せっかく貞操帯を用意したのに、勃起させていたら付けられないでしょう」
初めて直接耳にする言葉の響きにびくりと体を震わせる一方で、顔はかぁっと赤らんだ。そんないかにも奴隷にふさわしい物をつけてもらえるのだと思うと、嬉しさにいよいよ勃起が止まらない。
雛木は早くつけてもらいたい一心で、冷水に向けて怒張した下腹部を突き出した。真冬に浴びせられる冷水のシャワーはあっという間に体温を奪い、鳥肌が立つ全身が寒さを訴える。ついにはガタガタと震え出しながらも、雛木は冷水のシャワーに自らの体を晒し続けた。
充血した股間が冷水に徐々に冷やされていく。飛沫が当たる腹部が先に冷えてしまいそうで、雛木は必死で腹筋に力を入れ、ペニスだけが冷やされるイメージを思い描いた。
徐々にペニスが勢いを失い、繊維が千切れそうな程歪んでいたTバックが形を整え出す。欲情した身体を断罪する冷たい水流に、体温が奪われ、全身が冷え切り、性器がたまらずに縮こまっていくのを、雛木は命令に応えられた安堵と共に見つめていた。
「可愛らしい姿になりましたね。いいでしょう。下着を太腿までずらして見せてごらんなさい」
張り付くTバックを丸めるようにずり下ろし、子供のように小さくなった無毛の性器を工藤の視線に晒す。雛木のペニスと睾丸はコックリングに搾り出されてぷるぷると揺れながらも、これ以上ないほどに縮こまっていた。
工藤の前で萎えた姿を見せる機会は少ないため、これはこれで別種の恥ずかしさがある。だが、それを見た工藤は満足そうに微笑み、平手で軽くペニスを叩 いてくれた。
「あうぅっ!」
工藤から素手で与えられる痛みは貴重だった。物理的な痛みに一瞬硬直した腰は、すぐに堪らないといった様子で無意識に前後に振られる。
――もっと、もっと叩いてほしい……。
しかし雛木の願いは叶えられず、ぷらんぷらんと揺れるペニスは鷲掴みにされ、筒状の何かに押し込まれると、ぐいっと双玉の間に挟み込まれた。
驚いて足の間を見下ろせば、先程ローテーブルに置かれていた透明の筒が雛木のペニスを覆い、股の間に隠すように押し付けられている。
透明の筒の根元には四つのスナップがついており、パチンパチンと音を立ててコックリングに連結された。
工藤が手早く締め上げていく透明の筒から繋がる黒い革ベルトは、股間から尻へ回されたところで二股に分かれており、雛木のウエストを一周して腹部に戻ってくる。そしてその先端も、コックリングにがっしりと連結された。
もっと叩いて欲しいと尾を引く痛みを抱えたまま急激に外からの刺激を遮断されたペニスは、戸惑うように筒の中で縮こまっている。筒の中は狭く、萎えた状態でもわずかに圧迫感を感じた。
腰の辺りで革ベルトの長さを調節できるようで、後ろから吊り上げるようにギリギリと締め上げられ、思わず「うぅっ」と呻きが漏れる。
コックリングは革ベルトによって上向きに引っ張られているのに、それに連結されたシリコンの筒が、無理矢理股下を潜らせる形でペニスを後ろ向きに引っ張っているのだ。ペニスを股縄の一部のように使われる格好となり、圧迫感のある痛みが下腹部全体に広がっていた。
ペニスを股の間に隠してしまうシリコンの筒は、思い描いた貞操帯のイメージとはかなり形が異なっていて雛木を戸惑わせた。
いつか工藤に性器を管理してもらえたらと夢想してインターネットで調べたことがあったが、一般的な男性用の貞操帯は、性器を自然なままの形で固定し、勃起や性交だけを阻む作りになっていた。ペニス部分は金属やプラスチックで覆われ、勃起することも外側から刺激することもできないが、排泄は可能であり、常時装着が基本だ。
しかし、今雛木に取り付けられた貞操帯は、雛木が見たことのない特殊な成形がなされていた。先端に穴は開いているのかもしれないが、ペニスが玉の間に挟み込まれて後方に引っ張られ続ける状態では、排泄を含めた日常使用は困難に思われた。
だが、特殊な形状の理由は、工藤の言葉ですぐに判明した。
「あなたは馬越君の前では女性だそうですから、こうやってペニスは隠しておきましょうね」
立ったまま見下ろせば、確かに下腹部は平らに見える。勃起や射精を禁じられただけでなく、性器そのものを封じ込められたつるりとした股間は、雛木の目に酷く倒錯的に映った。
「あ…りがとう…ございます……」
これをつけたまま馬越に会うのだと思うと、背徳感に声が掠れた。
「濡れた下着はもう脱いで構いませんよ。風邪をひいてはいけませんからね」
工藤の手で貞操帯をつけてもらった喜びで忘れかけていたが、確かに体は冷え切っていた。かじかんだ指で張り付くタンクトップとTバックを引きはがし、手早くタオルで水気を拭う。
「さぁ、馬越君を呼んでください」
雛木は、震える指で馬越の携帯電話にメッセージを送った。指先の震えは、寒さだけが理由ではないことに、自分自身で気付いている。
全裸に貞操帯だけをつけた奴隷らしい格好で、マスターに命じられ会社の同僚を呼び出す。
淫夢と日常が交じり合ったような感覚に、雛木は眩暈がするほどの興奮を覚えてしまっていた。
もし馬越が呼び出しに応じなかったらどうしようと心配する間もなく、一分と経たずに返事が届いた。
《すぐに行く。今六本木だから、一時間以内に着くと思う。待っててくれ》
これから自分が行う恥ずかしい誘惑を思い、たまらず「あぁ……」と甘い溜息を漏らす。途端に、ペニス全体が締め付けられ、「うっ」と小声で呻いた。
「どうしました?」
雛木は誤魔化そうと首を振るが、いつでも奴隷の様子に気を配ってくれる主人が見逃すはずがない。指先でくいくいと呼び寄せられ、ソファに腰掛けた工藤に貞操帯で覆われた股間を検分された。
「先ほどわざわざ寒い思いをさせてまで萎えさせたはずですが、おかしいですね?」
シリコンの筒の中で質量を増してしまったペニスが、工藤の視線に射抜かれた。
「私はあなたに声すらかけていないはずですが、なぜまたペニスを膨らませているのですか?まさか、馬越君と連絡をとっていて興奮した、なんて言いませんよね?」
そうだけど、そうじゃない。工藤の命令があればこその欲情だ。
工藤だってそれはわかっているはずだが、雛木の勃起の理由に、馬越という第三の男の存在があるのは事実だった。雛木は必死で首を振るが、百パーセントの潔白を主張できるはずもなく、口を閉ざした。
「呆れて物が言えませんね。なんて節操のない。今でもこんな状態なのに、彼の前で乳首を弄ったりしたら、お尻に欲しくなって我慢できなくなってしまうのでは?」
じろりと睨まれ、再度首を横に振ろうとして固まる。
工藤に嘘はつけない。馬越と寝たいなどほんの少しも思っていないと命を懸けて誓えるが、四六時中抉られたいと餓えているアヌスは、乳首を弄れば余計に欲しがってしまうのは火を見るより明らかだった。まして、ペニスを貞操帯で封じられれば、切なさは余計に募ってしまう。決して馬越に挿れて欲しがったりはしないと断言できるが、『お尻に欲しくなって我慢できなくなってしまう』のは、否定しようがなかった。けれど、それを満たしてほしいのは、工藤に対してだけだ。
「申し訳ありません……」
工藤に責められているのに、馬越の前で乳首を弄りながら工藤の視線を感じ、アヌスを切なく疼かせる自分を想像したら、股間に血が集まってしまうのを止められない。なんて罪深い体だろうか。
葛藤を抱えつつも殊勝に謝罪の言葉だけを口にする雛木に、工藤の視線が少し弛んだ。
「素直さはあなたの美徳ですね。私があなたを可愛らしいと思う理由の一つです」
突然の優しい言葉がとても嬉しくて、ソファに座る工藤の足元に膝をつき、許して欲しいと頭を垂れる。工藤が好ましいと言ってくれるならもっと素直になろうと思うと、自然に主人に対する恭順の姿勢になっていた。工藤に恋しているが、それ以上に、いやその恋心を含めて、奴隷として工藤に仕えることが雛木の素直な欲求だった。
「念のため、と思ってこんな物を用意してきました」
ゴトン、という大きな音に、顔を上げる。
「強制するつもりは露ほどもありません。ですが、あなたが馬越君の前でアヌスを切なく疼かせずにいる自信がないなら、これを嵌めて塞いで差し上げてもいいですよ」
工藤がローテーブルの上に音を立てて置いたのは、無数の突起が突き出た凶悪な大きさのプラグだった。
ソファに腰掛けて指を組む工藤の優美さと、いかがわしい玩具との対比にくらくらとする。それは見るからに、これまで工藤に使われたプラグの中で一番大きく、長く、一つ一つの突起も度を越したサイズだった。
太くて長いディルドやバイブレーターを使われたことは何度もあるが、プラグとなると、括れた部分まで体内に全て飲み込むことになる。先端から括れまでの長さは、とてもではないが自分の腹に収まるとは思えなかった。しかもよく見ると、太い突起の一つ一つの頂点がぼこぼこと波打ち、内壁を内側から押し上げて刺激してやろうという嗜虐心に満ちている。
明らかに自分を苦しめることになるとわかっていながらも、雛木は気付けば工藤の脛に頬を擦り付け、その玩具を強請っていた。
「お願いします。それを俺に……ください」
バッと足で跳ね除けられ、裸でみっともなくカーペット敷きの床に尻餅をつく。足を組んだ工藤が、これ見よがしに磨き抜かれた焦げ茶の革靴を目の前で揺らした。
「何のために、どこをどうして欲しいか。おねだりは具体的にと教えたでしょう」
今頃馬越は六本木からこちらへ向かっているだろうか、とふと考える。これから同僚と、馬越と会うのだ。
なのに、それがわかっていて、こんな恥ずかしい言葉を口にするのを止められない。
雛木は半開きになった口がどれほどだらしなく淫蕩かを考える余裕もなく、言葉を紡いだ。
「俺は淫乱なので、乳首が感じすぎて、気持ちよすぎて、弄るとすぐにお尻を犯してほしくなってしまいます」
伏せた視線を許さないと言うかのように、工藤の靴先が雛木の顎を持ち上げた。固く滑らかな感触に無理やり仰のかされ、視線を合わせられ、雛木の口から呼吸と共に「ぁ……ぁ……」と小さな喘ぎが漏れた。
「だから?」
微笑んで促され、雛木は工藤と視線を合わせたまま、自身を罰してもらうための言葉を口にした。
「だから……あぁ……だから……その大きいプラグを俺のお尻の穴に嵌めて、ペニスが欲しくなったりしないように塞いでください……!」
唇の端からつっ…と涎が零れ、工藤の美しい革靴を汚した。縛られてもいないのに、官能の嵐が荒れ狂って、体が言うことをきかない。工藤のつま先に顎を縫い留められたまま、雛木は絶頂を堪えるようにびくびくと体を震わせた。
「仕方がないですね。では、さっさとアヌスを解しなさい」
《続》
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