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雛木くんはトイレがお好き(※小スカ系描写注意)

社畜、という言葉が日常会話で出てくると少しドキリとする。 一般的には、職場へいいように拘束される労働者への呆れや憐みや、はたまた自虐といったニュアンスで使われることが多い言葉だが、真っ当な陽の光の下で人間を家畜扱いする言葉がしらっと発せられると、マゾヒストを自覚した雛木は心の中で軽くふふっと笑ってしまうのだ。 会社の奴隷とはあまり色気はないが、人間を堂々と家畜呼ばわりしているこの言葉が、雛木は割と好きだった。 しかし、それが自分の身に降りかかってくるとなるとそうも言ってはいられない。 角が立ちすぎない程度に定時で仕事を終えたい雛木にとって、取引先の杜撰(ずさん)な仕事の皺寄せで残業を余儀なくされるのは、かなり耐え難いストレスだ。 取引先からデータが届かないことにはこちらの作業はできないのに、約束したはずの締切時間をとっくに過ぎてもまだ届かない。しかも、取引先の営業は、こちらから連絡して初めて「遅くなってすみません。今日中に送ります」などとのたまった。今日中ってまさか日付が変わるまでじゃあるまいなと嫌な予感がよぎったが、案の定、定時までにデータは届かなかったのだ。腹を立てるなという方が無理がある。 社会人である以上、職場で苛立ちを表面に出すのは極力避けてはいるが、ついついキーボードを叩く音が大きくなってしまうくらいは見逃してほしい。ただでさえイライラする状況なのに加えて、何しろ欲求不満なのだ。 毎週金曜日の夜に工藤に会うのを楽しみに一週間をやり過ごしている雛木にとって、先週の金曜の約束が自分の出張で潰れたのは痛手過ぎた。急なトラブルだったため、当日の午後になってから工藤に断りを入れるはめになったのだ。ものすごく会いたいのに、自分から約束を断らなければいけない精神的な苦痛は計り知れなかった。 しかも、工藤もそれをわかっているだろうに、敢えて意地悪なメールを送ってくるのだ。 ≪この一週間、あなたに会えるのを楽しみに過ごしていたので、とても辛い気持ちです。ですが、あなたが私に対する申し訳なさから、自分を慰めることを我慢し、心と体を切なく持て余すのだと思えば、多少は私の心も慰められるというものです。≫ その文面が意図するところに思わず一瞬目の前が真っ暗になったが、奴隷に許されたのは良いお返事だけだった。 ≪もちろんです。来週工藤さんに会えるまで、決して自慰をしたりはしません。罰は甘んじて受けます。≫ 以来一週間、玩具をしまったチェストに伸びそうになる手を、意思の力でねじ伏せてきたというわけだ。 だがしかし、いい加減限界だった。 しかも、 ≪とはいえ淫乱なあなたにただ我慢させるのも酷ですから、欲情したら乳首を弄って気を紛らわせて構いませんよ。もちろん射精は論外ですが、乳首だけならどんなに感じても結構です。来週どれほど熟れた乳首を見せて下さるのか、今から楽しみですね≫ などと書かれたら、余計に我慢が辛くなるとわかっているのに弄るしかなかった。乳首を少し弄っただけで性器もアヌスも切なく疼くようにしたのは工藤なのに、本当に意地悪だ。 射精を堪え、絶頂から気を逸らしながら、毎日乳首ばかり弄り続けて、もうおかしくなりそうだった。仕事中にも関わらず、なんでもいいからブチ込んで、気絶するまで揺さぶってほしいなどと卑猥なことばかり考えてしまう。 そんな状態でやっと迎えた木曜日なのだ。今日さえ乗り切れば明日工藤に会えるというのに、取引先の無精でその今日を引き延ばされてはたまったものではない。 雛木はいつまで経ってもメールの到着を知らせないPCの画面に向かって、無意識に小さく舌打ちした。その途端、はっと気づいて今のは品が無かったなと反省する。 誰が見ていなくても、誰が知らなくても、自分はあの美しい工藤の奴隷なのだ。上品な工藤の所有する奴隷として、恥ずかしくない存在でありたい。 欲しくて焦れるならまだしもイライラして舌打ちするような奴隷は自分でも可愛くないと思い、雛木は気分を入れ替えるべく一つ伸びをして、人がまばらになったフロアをトイレへと向かった。 社内の長い廊下を足早に行くと、後ろから急に歩調を速めた足音がして、「どうした、今日は随分遅くまでいるんだな」と気安く肩を叩かれた。 その声の主に見当はついていたが、気分がささくれている時に話したい相手ではない。とはいえ無視するわけにもいかずに振り返ると、やはりそこにいたのは同期の馬越(まごし)だった。 「データの納品待ちだよ。待つしかできなくてイライラする」 同期の気安さもあり、愛想笑顔を作ることもなく苛立ちをアピールしたが、 「あぁT社か。あそこいっつも仕事遅いよなぁ。俺もあそこのせいで何度お客様に謝りに行ったか」 とあっけらかんと言われれば黙るしかない。 内勤の雛木とは異なり、営業の馬越は常に顧客への矢面に立たされている。どちらが偉いということはないが、営業の方が心を折られるような機会が多いことは確かだ。それでもいつも明るく、同期の間でもムードメーカー的存在でありつづける馬越は、雛木が内心一目置く存在ではあった。 とはいうものの、タイプが違いすぎて友人になれる気はしない。第一、なぜ手を人の肩に乗せたままにしているんだ。この体は工藤のものなのだから、他人との不必要な接触は避けたいというのに。 「馬越は今日に限らずいつも遅いみたいだな。お疲れ様。俺ちょっとトイレに行きたいから…」 会話を切り上げようと、失礼にならない程度の冷淡さですぐ先のトイレを指差したが、 「お、じゃあ俺も連れションしていこっと」 と馬越は一ミリも意図を汲み取らない気安さでついてきた。 雛木は内心溜息をつかざるをえない。馬越が苦手なタイプだということもあるが、それ以上に一緒にトイレに行きたくない事情がある。 催すタイミングが似た人間はいるもので、雛木はこれまでにも頻繁に馬越とトイレで顔を合わせていた。会ってもお疲れと声をかける程度だし、あちらは意識していない可能性の方が高いが、不審に思われることは避けたい。馬越は悪い奴ではないが、人が触れられたくないところにも悪気なくずかずかと土足で踏み込んでくるところがあった。 結局連れ立ってトイレに行き、雛木がすっと個室に入って鍵を閉めると、馬越は「なんだうんこか」と遠慮のないボリュームの声で言い放った。返事をしないでいると、ジョロジョロと放尿する音が聞こえてくる。雛木はまだベルトを外す気にならず、馬越の様子を個室の扉越しに伺った。聞きたくもないが勢いのいい音を聞きながら、健康的で健全な放尿でよろしいと内心で寸評を述べる。 しかし、そこからが早かった。便器の水を流した後、絶対に指先しか洗えていないだろう短時間だけ洗面台の水音がして、「じゃーな、お疲れさん」と声が聞こえたかと思ったら、エアードライヤーの音もしないまま出て行ったのだ。手についた水滴はパッパッと払ったに違いない。 男らしいと言えばそうなのだろうが、このガサツさはどうあっても受け入れられない。雛木は若干気分を害したが、その一方で、馬越のそっけないトイレ事情にもったいないなとにやりとする。 工藤に人目を憚る性器にしてもらって以来、いくらトイレとはいえ公共の場所で性器を露出するのは考えられない恥ずかしい行為になった雛木だ。こそこそと個室に入る度、自分の性器がいやらしいから隠さなければいけないのだというある種の自分への蔑みが生まれて、毎回体が熱くなった。 工藤に出会うまでは考えたこともなかった種類の興奮だ。だから、そんな興奮があることを露ほども知らず、そっけなくトイレを済ませてしまう馬越のことをもったいなく思うのだ。もちろん、彼にとっては大きなお世話だろうが。 工藤の調教によって、日常の様々な出来事が色を帯び、新たな喜びを与えてくれている。恋をすると景色が薔薇色に見えると言うが、雛木の日常は内臓のようなもったりとしたピンク色を帯びた。自分の中にこんな淫らさが潜んでいたことに恐ろしさを感じた時期もあったが、工藤に肯定され、自分でも受け入れた今では、この変化に喜びしかない。あらゆる出来事が淫らな色に染まったこの日常を、雛木は心から愛せるようになっていた。 そんな日常の中でも、一際気に入っているのがこの時間だ。ようやく一人になれたしんとした空間で、雛木は熱い呼吸をひとつついた。 周囲の気配に耳を凝らしつつ、性急にならないようゆっくりとベルトを外す。便器を目にすることで途端に強くなった尿意をしっかり意識しながら、スラックスを膝までおろし、下着を露出した。 下着は買ったばかりの新しいボクサーパンツだ。メッシュ地で通気性は抜群だが、スポーツ用のサポーターと同じ編み方をしているという商品で、締め付けが尋常ではない。通常サイズの男性器であれば、膨らみが抑えられてスポーツをするのに邪魔にならないし、細身のスラックスでも股間を目立たせずに穿くことができる。 しかし、その強力なサポーター編みにも関わらず、雛木の股間はもこりと盛り上がっていた。勃起しているわけではないのは形から明らかだ。 雛木はその膨らみを視線でたっぷり堪能し、更なる尿意の高まりを感じながらゆっくりと下着のゴムに指をかけた。生地全体の締め付けが強力なため、簡単には脱げない。爪で生地を傷めないよう、上から両手を差し込み、わずかに空間を作るようにしながら徐々にずり下げる。生地がペニスに引っかかる心地よい抵抗感を感じながら、ゆっくりと全てを空気に晒した。 ぼろんとまろび出てきた無毛の性器は欲求不満のためにほんの少し膨らんでいたが、その程度の膨らみでは説明できないほど、前方に向かってせり出している。ペニスの両側には、通常は立った自分からは見えないはずの双玉まで見える。それは我ながらとても卑猥な眺めで、何度見ても見飽きない。雛木はペニスの根元に食い込む金属を、愛しげにそっと指先でなぞった。 ペニスも玉も一緒に絞り出し鈍い光を放つコックリングは、言わずもがな工藤から贈られたものだ。工藤に乞われた通り、嵌めてもらってから一度も外してはいない。 他人には理解してもらいにくいだろうが、雛木専用に(あつら)えられた性器を圧迫するリングは、普通の指輪などより遥かに嬉しく、工藤との結びつきを感じられる贈り物だった。性の象徴を「Dearest my slave S.K」と彫られた金属で飾られ、常に軽く締められていると、自分の体と心の中心を常に工藤に支配されている気持ちになれる。それでいて、他人からは決して見えない場所だ。工藤との強い繋がりと被虐への悦びの証を服の下に隠し、何食わぬ顔で送る日常は、全てにもったりとしたピンク色のフィルターがかかり、美しく色づいている。 ただひとつ、そんな幸福の象徴であるリングなのに、普段は自分でも眺められないことだけが残念ではあった。さすがに自宅のように事あるごとに股間を剥き出しにしてうっとり眺めるわけにはいかない。だから、職場で唯一このリングを眺められるトイレは、雛木にとって特別な場所になっていた。 最初に工藤に陰毛を剃って貰って以来、自分で毎日丁寧に剃り続けているため、トイレはずっと個室ばかり使っている。無毛だというだけでも、同性相手にも簡単に見せられない性器になったのだということに興奮を覚えていたが、今はそこにコックリングまで加わったため、尚更人目に晒すわけにはいかない。いやらしく飾られた性器を隠すためにこそこそと個室に入る後ろ暗さに加え、それが工藤の想いが詰まったものとなれば、興奮も喜びも一入(ひとしお)だ。 雛木はちらりと腕時計に目をやり、自席を立ってからまださほど時間が経っていないことを確認すると、膝まで下ろしていたスラックスと下着をおもむろに全て脱ぎ出した。靴からも一旦足を抜いてスラックスと下着を完全に取り去り、下半身は靴下と靴だけのみっともない格好になる。 別に全て脱がなくても用は足せるのだが、この格好の方が足を大きく開くことができて、楽しみが大きい。それに、個室とはいえ社内で下半身が裸になっている背徳感はたまらないものがあった。 ゾクゾクした興奮と緊張感に肌を粟立てながら便座に深く腰かけ、思い切り足を開くと、縊り出された無毛の性器が水面の上でぷるりと揺れる。愛おしむように玉からペニスまで全体を手の平で撫で、軽く揉みながら、尿意が限界まで込み上げてくる感触をゆっくり味わった。 そしてリングの上から軽く押して、持ち上がってしまう先端を下に向けた。そのままはぁと熱い息を小さく吐き、腹圧を極力ゆっくりと強めて、尿道を強く意識した。 膀胱から押し出された一番最初の尿が、尿道を通り抜ける感覚に小さく身を震わせる。コックリングは雛木に合わせて作られたというだけあって、程よい締め付け具合で排泄を完全には阻みはしない。しかし、根本を押さえつけられているため通常のような勢いはなく、長い時間をかけてショロショロと慎ましく溢れ出した。圧迫されたペニスの根元を小便が通るときのひっかかる感触も独特だったし、通常よりも長い時間をかけて小便が尿道を通り過ぎるのは、尿道責めの悦びを体で知る雛木には快感でしかなかった。 排泄はそもそも人間にとって根源的な快感のある行為ではあるが、工藤のおかげでその喜びが更に増したのだ。会社のトイレでコックリングのついた下半身を剥き出しにして、大股開きで放尿しながら快感を貪る。どう考えても変態だが、すごく、気持ちがいい。 工藤を慕う恋の喜びは勿論、日常の些細なことを快感に変えられるマゾヒスティックな喜びを自覚できたことを、雛木は心の底から喜んでいた。 ≪……というようなトイレの楽しみ方をしています。≫ 日付が変わる直前にようやくたどり着いた自宅から、雛木は工藤にメールを送っていた。 わざわざPCを立ち上げて、メールでやりとりするのは工藤との定番だ。もちろん電話番号も教えて貰ってはいるが、余程のことが無い限りはかけない。 スマホのチャット形式の矢継ぎ早な会話に慣れ切った身には、工藤から提案されたメールでのやりとりが初めはもどかしく感じられたが、今ではとても気に入っている。件名から始まり、挨拶をし、単語と文章を吟味して相手に送るメールの手順は、自分がどんな風に工藤を想っているか、自分がどんな風に感じているのかをゆっくりと考えさせてくれる。 今も、トイレの中での自分を事細かに説明するにつけ、かなりの変態だなと冷静に考えて苦笑しつつも、熱くなった股間を服の上から握り込んでいた。 「性癖や嗜好は極々主観的なものですが、ことマゾヒストは他人から見た自分も変態だと理解することが喜びに繋がるので、自分がどんなことをして興奮したのかきちんと説明するようにするといいですよ」 というのは工藤からのアドバイスだった。おかげで、たかだか排泄のためにトイレに行くというだけの行為で興奮と快感を得て、それを文章にして工藤に報告することでまた興奮できた。 一度で二度も三度も気持ちいい。自分の欲望について掘り下げることで、日常の様々な場面で気持ちよくなれるなんて、以前は思いつきもしなかった。雛木にとって工藤はただ虐めてくれるだけのサディストでは決してなく、新しい世界を見せ、自分自身について考えさせてくれる、尊敬して仕えるべきご主人様だった。 自慰を始めたい気持ちを眉根を寄せて堪えながら、どうすれば大切な工藤にも喜びを返せるかと考えていると、PCの画面の右下に新着メールを知らせるアイコンが点灯した。アイコンの色は赤。工藤からのメールにだけ設定した特別な色だ。 雛木はすぐにメールを開きたいのを堪え、心の中でゆっくりと十数えた。 工藤から返信が届いた喜びを噛み締めるための十秒だ。すぐにメールを開いてしまったら、味わえない幸福な時間。こうすれば、万が一明日の予定が駄目になったというメールだったとしても、十秒間は幸せな時間を過ごせると、雛木が編み出したいじましい習慣だった。 ≪自分のいやらしさを自覚し、肯定的に楽しんでいるあなたの報告は、読んでいるこちらまで嬉しい気持ちになります。大股開きで排泄しながら興奮に息を乱しているところを想像すると、大変可愛らしい。明日はもっとトイレが好きになるようなプレイをしましょうね≫ 何度も何度も文面を読み直す。嬉しい、可愛らしいという肯定的な単語に喜びが溢れ、プレイという単語にゾクゾクと欲情が背筋を駆け上がった。 そして、明日という単語。 明日、工藤に会えるのだ。用事が入ったという返事じゃなくて本当に良かった。 明日、明日。 あぁ、明日という言葉がこんなにも輝かしく、いやらしく色づいた響きになるなんて考えてもみなかった。 雛木はトイレが好きになるプレイとやらに想像力と興奮を掻き立てられ股間を固くしつつも、工藤に丁寧に返信し、自慰を堪えて早々にベッドに入った。そしてベッドサイドのチェストを開き、張型系のおもちゃからは意識的に視線を逸らして、麻縄とクリップを取り出す。 これは自慰じゃないんです。寝ている間についつい下半身に手が伸びそうになるから、それを戒めるだけなんです。 胸の内で工藤に言い訳をしながら両の乳首を摘まみ上げ、すぐさま固く尖ったところを押し潰す勢いでクリップで挟んだ。 「あっ…ふ…ぅん…」 しんとした室内に響く自分の声が、一人で乳首を弄って感じているのだと強調するようでやたらと恥ずかしい。 とっくに固くなっていた股間は、もう誤魔化しようもなくスウェットを押し上げていた。 それでも雛木はそこには決して触れず、麻縄で自ら両手を縛り、ベッドヘッドに結わえ付けた。そしてぐっぐっと何度も引っ張って手首に麻縄が食い込む感触を堪能しながら、腰をくねらせ、先程の工藤からのメールの文面に想いを馳せる。 トイレが好きになるプレイ…。もう充分好きなのに、これ以上トイレで興奮するようになったらどうしよう…。 血が止まらない程度に調節してつけたクリップのせいで、乳首がじんじんとひたすら熱い。このまま朝までクリップを外さずにいれば、触れただけで飛び上がるほど敏感に腫れ上がっているだろう。 雛木は切ないアヌスをもどかしげに何度も締め付けながら、明日という未来への限りない歓びを感じられる自分を、酷く愛しく眺めながら幸福な眠りについた。

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