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昼前だというのに、ちっす、と後輩が二人、早々と部室にやってきた。
「なんだったんすか、美山先輩」
2人とちょうど行き違いで先輩は出て行った。俺は、まあな、と返す。
「説教っすか?」
一人がにやにやしてきく。
「んなわけあるか」
「じゃ、なんなんすか?」
「あ、名残惜しかったんじゃないっすか?」
もう一人がきく。俺はふっと笑う。
「そうだな」
「先輩ら、仲良かったっすもんね」
「え?」
ちょっと驚いた。
「篠原先輩、美山先輩のこと、よくいじってましたもんね」
「そうだっけ?」
「先輩、自覚なかったんすか?」
一人が笑う。
「めっちゃ、かまってたよな」
「そうそう。篠原先輩、美山先輩のこと好きすぎるだろって」
俺は苦笑する。
俺か。好きすぎたのは。
今さっき、そこで、後輩たちの気配を外に、ドア横の窓にやつらのシルエットを見ながら先輩とした別れ際のキスの感触を手繰る。先輩の体の深いところに刻もうとしたキス。
確かにな。
「何、にやにやしてんすか?」
「してねえし……」
「先輩、着替えないんすか?――あれ?学ランのボタン、2番目の、無いっすよ!」
言われて俺は、胸元を触る。
「ああ、これは……」
あの人が持っていった俺のボタン。そして、
「第2ボタンって、なんか意味深っすね」
二人が冷やかすように笑う。
「そうだな……」
ポケットの中、あの人のボタンが俺の指の間を転がった。
END
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