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第1話

初恋はいつだっけ。 高校の時、初めて付き合った相手は同性だった。 俺は完全な同性愛者って訳じゃないけれど、本当に好きだった。 当時は相当にウカれてたと思う。 自分で言うのもなんだが、俺は女々しいしめんどくさい男だ。 けれど、当時だけは恋してる自分も好きだった。多分。 とても申訳ない形で別れてしまった事を今もとても後悔していて、謝りたいと思っているけれど、今更怖くて謝る事も出来ない。 ごめんなさい。そんな一言が言えないまま、もう8年近く経ってしまった。 「…聞いてんのか?」 「聞いてなかった」 或る日の夜。賑わう居酒屋の一室で高校時代の同級生の晴翔と向き合っていた。 良くも悪くも真面目で良識のある奴は、俺の性癖を知っている数少ない友人の1人であり、奴自身も男との経験がある。しかも、今は同性に言い寄られている最中だとか。 毒舌でドライなキャラなので、時々その辛辣な言葉で心を抉られることもあるけれど、人には言えない事を言える貴重な相手だ。 「お前なぁ」 呆れたような溜息を零す晴翔。彼を見ていたらついつい、昔の事を思い出してしまったのだ。 「みんな、何してんのかな」 そう言った俺に晴翔は今も連絡を取っている人を幾人か上げてくれたが、その中に俺のかつての恋人の名前はなかった。もしかしたら、結婚して子供だっているかもしれない。女の子が完全にダメ、とかではないし、女性経験もあるけれど基本的に同性を対象にしている俺にはない未来だ。想像もつかない。 高校での失恋の後、大学に入ってからも初恋の相手への気持ちをまだ引き摺っていて。意地っ張りだった俺は「恋愛なんてしない」というものすごく薄っぺらい強がりを掲げていた。 そんな強がりがあっさり剥がれたのは、大学1年生の初夏。 同年代にとても気の合う奴が出来た。お互いに家を行き来したり、2人でつるむようになったある時。飲みの席で、相手の性別は内緒にしたままぽろっと「前の人が忘れられない」と零したら、親身になって聞いてくれたのがきっかけだった。 俺はのめり込むように相手を好きになったけれど、相手はそうじゃなくて。付き合うようになってすぐに俺以外に、男女問わず相手がいることが分かった。俺のことが好きなのは嘘じゃないけれど、俺だけではダメなんだそうだ。 ”俺、特定の相手とってダメみたいでさ” ”そうなんだ” ”お前が俺しかダメっていうなら…さ” ”…うん。ごめんな” こんな会話を最後に文句1つ言えずに別れた。怒る事が出来なかった。別れたのが夏休みの最中だったので、今も夏になると思い出してしまう。 こうして大学に入ってすぐにあっという間に失恋し、恋愛に恐怖を覚えた翌年。 アルバイト先に選んだ飲食店でそこに勤めていた先輩と親しくなり。その先輩から「付き合ってほしい」と言われた。 その人は誠実で真面目な人で優しい人だった。 最初は恐怖心から敬遠していたのだが、この人なら大丈夫なんじゃないか、という気持ちもあり付き合うことを決意した。 しかし、彼はいつしか、真面目な性格ゆえに「男が好きなのか女が好きなのか分からなくなった」といった事で悩み始めた。 とても、とても真面目な人だった。そして、同時に弱い人だった。 寒い冬のある日。たまたま先輩が女の子と並んで歩いている姿を見た時のショックは今も忘れない。 其の後先輩から「話がある」と電話で言われた時、ああ、別れ話だと直感で気付いてしまった。 近所のファミレスで話し合った記憶は今だ鮮やかだ。 ”…ごめん、俺…” ”…。先輩…俺と別れたいですか…?” ”え” ”俺達男同士だから。…続けるの…辛くなったんじゃないかなと思って” 強張った顔で微笑んだ俺に、先輩は俯き。しばらく黙ってから「ごめん」と言った。 ちょうどクリスマスの手前で、ついでにバイトも辞めてしまおうと思ってたのに、ケーキなんて売っていたおかげで「クリスマス商戦が終わるまでは!」と店長に泣きつかれた。夏も、冬も嫌いだ。

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