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第2話 めりーくりすます!
深海は朝からとても忙しそう。
オレは深海に朱雀のところにいてねって念押しされちゃったから、お手伝いできずに朱雀や白虎と今後の農作物の区画の割り振りや不公平を被っている場所や人がいないかを確認しているところ。ちゃんとお仕事しています! って誰に言っているんだろうね? オレ。
「和子、そろそろお疲れでしょう? こぉひぃでも淹れましょうか?」
白虎の提案はすごく魅力的。でもそろそろ夕陽が落ちる……深海か尾白が迎えに来てくれるとは思うけど晩ご飯の前にこぉひぃはどうなんだろう? 深海はいつも朝起きた時と食後だから、こぉひぃをいつ飲んだら良いのかまだ悩んでしまう。
「んー、でも……晩ご飯前だし……ありがたいけど、やめとく!」
「はい、解りました。晩ご飯をいただいたら、こぉひぃをご一緒しましょうね?」
「んぇ? 今日は二人の館で晩ご飯なの?」
「いや? オレ達が呼ばれてるんだよ、深海に。和子、聞いてねぇか?」
聞いてないよ! と返事をする前にお腹の虫がグゥと鳴って、二人はあらかた片付いた資料をまとめ始めた。
「さ。和子。深海さんの所へ参りましょう? 青龍も玄武もお呼ばれしているはずです」
「うん!」
晩ご飯はいつもよりすこ〜しだけ少なくて、いつも腹八分目ピッタリの量を出してくれる紅蘭はどこか身体の調子が悪いのかと心配していたら……違ったよ!
「実はね、今日は聖誕祭の前夜祭なんだよ」
深海のいた世界では、今日は特別な日なんだって。
家族と過ごしたり、恋人や大切な人と過ごしたり……発祥は異国らしいのだけど、色々あって文化風習が深海の国でも広まったんだとか。
いつもは二段か三段重ねの狐色のけぇきが、なんだかすごいことになっちゃってる!
今日のけぇきは白いよ!? なんで!?
「今年は初挑戦でこれだけしか作れなかったから、郷の人達には申し訳ないけどオレ達だけでごめんなさいってことで!」
そう言って深海は真っ白にお化粧されたけぇきにそっと包丁を入れた。
みんなが何故か緊張して呼吸を止めている……もちろんオレも。
「見過ぎだよ」
これはルナのねって渡してくれたけぇき。いつもと同じ三段重ねなのに、いつものと中まで違う。
三段目と二段目の境目に白色と橙色。二段目と一段目の境目に白色と赤色。天辺は白色と朱色と白色。
「深海、すごい! すごく綺麗!」
「凝ったデコレーション……えーっと、飾り付けはできなかったけど、味は多分大丈夫なはずだよ。あ、誰か雪江さん達にも声かけてきて。んで、コーヒーはルナに任せても良いかな?」
「もっちろん!」
「僕が行くよ! みんな厨房?」
「多分そう。厨房にいる人達、全員に声かけてね。一応伝えてはあるんだけど、遠慮しそうな雰囲気の人もいたから、絶対に連れてきて欲しいな」
任せて〜って部屋を出た青龍はご機嫌みたいで、廊下でもう紅蘭の名を呼び始めていた。
「こぉひぃ、のお湯、もらってくるね」
「あ、紅蘭さんが持って来てくれるから、ルナはここで待機!」
「はいっ!」
綺麗なけぇきを見ていたら、ちゃんと言うこと聞かなくちゃって思えてとっても不思議。
青龍に引率されて、深海とオレの館で色々と手助けをしてくれるみんなが集まった。それぞれの目の前にけぇきとこぉひぃが並ぶと、深海が照れ臭そうに話し出した。
「俺がいた国では、今日は特別な日とされています。元は異国の風習だったけれど、家族や大切な人と過ごす、そんな日です。俺を受け入れてくれて、温かく接してくれたみんなは、俺の大事な家族です。足りなければまた焼くので……どうか皆さん、俺と一緒に家族の日を過ごしてください。お願いします!」
ぺこり、と頭を下げた深海に拍手の音が降り注ぐ。一番大きな音で手を打ち合わせたのはもちろんオレって言いたかったけど、尾白だった。朱雀の拍手の音も大きくて、なんだかちょっと負けた気分でちょっぴり悔しかったから音が小さい分たくさんたくさん手を打ち合わせた。
「深海、すっっっごく美味しい!」
「伴侶さま? 私 また教えを請わねばなりませんわ!? この白いのはどうやって作りますの?」
「え? 牛乳ですよ! 前にバターっていうのを作ったでしょう? あれと混ぜ合わせて……うーん、力仕事だし、やっぱり今度一緒に作りましょう」
深海がそう言うと雪江と紅蘭はとても嬉しそうで、子供のようにはしゃいでいた。
あちこちから美味しいとすごい、の声が聞こえる。
「こういうの……家族で過ごすっての、憧れだったんだよなぁ……」
ぽつりと呟いた深海の言葉を拾ったのは多分オレだけ――。
「ねぇ、深海……その特別な日って、今日だけじゃないよね? 今日って特別な日の前夜祭なんだもんね? 本番は明日だよね?」
「あー、そうなるのかな。多分」
だよね。前夜祭だもん。本番は明日。
じゃあ、家族に会いに行かなくちゃだよ。
「深海、明日おじいちゃんとおばあちゃんに会いに行くからね! これは相談じゃなくて決定事項だから!」
「え? じい様んとこ行くの!? 行く行く、僕も行くからね! 今度は僕の番でしょ! ご挨拶もまだしてないしもごっ」
朱雀に、深海が来てから郷に増えたじゃむたっぷりのけぇきを口いっぱいに放り込まれて、青龍はもごもご黙った。
深海がじゃむって言う物を作ってくれてから果物も無駄が少なくなって、木々も喜んでいたのは知っていたけれど、ここ最近、やたらと牛や木々に
「無理ない範囲でお願いね」
って言っていた理由に合点がいったよ。
今日この日の為に、普段より多くの牛乳と果物が必要だったんだね。
「深海、これは? なんのじゃむなの?」
「上から、無花果、苺、蜜柑と金柑を合わせたジャムだよ」
甘すぎず、さっぱりなのにも納得だよ。
「明日、行くよ! 楽しみだね!」
また竹筒の水筒にお水詰めて行かなくちゃ!
「ねぇ、深海。こういう日なんだから、何か口上とかないの?」
少し考えて、深海は異国の言葉だよ、と前置きして教えてくれた。だから、言うね?
「めりーくりすます!」
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