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番外編 / 出会い04

「ん?」 「…あ」 目が合った途端、彼が違和感の無い赤い目を左、右へとウロウロさせる。動く瞬間にコンタクトも微妙にズレるのが不思議で、思わずグッと覗き込んでしまった。 「やっぱそれコンタクトだよな。赤なのにすげえ似合ってるよ」 「……」 彼が困惑したような表情を浮かべる。その表情に俺も瞬時に顔が近過ぎることに気付いて、慌てて距離を戻した。 「ごっ、ごめん!」 「ああ、いや……全然大丈夫。ありがとう」 「…!」 彼の優しい声に、顔に、また目が離せなくなった。 距離ができたと言うのにドキドキと心臓がうるさい。なんなんだこれは。 彼はヴァンパイアじゃなかったんだ。これはハロウィンの仮装で、ただの人間。なんならクラスの女子達に着て欲しいと懇願されて、仕方なく着た衣装だということをここに来るまでに教えてくれたじゃないか。 だから彼は俺の目が離せなくなるような魔術は使えないし、心臓をうるさく鼓動させるなんて出来ない筈で―― 「そういえばまだ自己紹介してなかったね。俺の名前は凌。1年生だよ。きみは?」 「あ!俺も1年!奏多って言うんだ」 「奏多…、奏多か」 彼――凌くんが俺の名前を呼ぶ。噛み締めるみたいにゆっくりと。何を思ってそんな風に呼んでくれるのかは分からない。でも呼ばれる声に、耳も脳も心地いいと歓喜する。 「ねえ、ナナ凌ちゃんのクラス行ってみたい!」 ラムネを食べ終えたナナちゃんが俺と凌くんの視線を遮って両手を伸ばす。機嫌の良くなったナナちゃんを見て、再び凌くんに視線を戻した。 凌くんも俺と同じような視線の動きをしたあと、牙の無くなった歯並びのいい白い歯を覗かせてはにかんだ。 「俺のクラス仮装カフェやってるんだけど、良かったら奏多も一緒に行かない?」 いつの間に牙を取っていたんだろう。気付かなかった。牙だけじゃなくて彼の本当の姿を見てみたい。どんな髪の色をしていて、どんな瞳の色をしているのか。 数十分前に会ったばかりだというのに、凌くんのことが気になって仕方ない。こんなにも誰かに興味を持ったのは産まれて初めてだ。 もっと知りたい。キミのこと。 「もちろん行くよ」 それこそ、小銭持ってない?なんて 気さくに話しかけて貰えるような仲になれたらいいなあ。 end.

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