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第68話

 オレ課長と向かい合わせに座り注文した物が来るまでの時間、口火を切ったのは課長だった。 「で、相談ってなんだ?」  オレは少し躊躇いながら課長の言葉に答えた。 「企画書の事なんですけど」  オレはそう言って鞄の中から企画書を出すと、躊躇いがちに課長へと差し出した。 「入社して一度も通らなくて何が悪いのか自分でも分からなくて」  課長は企画書を受け取ると真剣な眼差しで目を通す。暫しの沈黙。オレの喉は緊張でカラカラ。出された水で喉を潤す。 「うーん」  課長は企画書をテーブルに置く。眼鏡越しの眼差しは真剣そのもの。 「はっきり言っていいか?」  課長の言葉にオレの緊張は最高潮。水を飲んで誤魔化すけど緩和されない。オレは覚悟を決めてはいと返事をした。 「まず企画書の内容は在り来たりなものだし、他社と比べても我が社の特色もない」 「……」 「この手のモノはもう何処もやっているし、目新しくもない。他社と同じ事をしても誰も使ってはくれないぞ」  オレは課長の言葉に返す言葉もない。ピリッとした空気の中、注文したメニューが運ばれてくる。 「とりあえず、時間がないから食べながら話そうか」  課長の言葉にオレは頷いて、ハンバーグを一口食べる。課長もステーキを口にし、お互い食べながら話を始めた。 「現存するモノを出すなら他社と差別化を図る必要がある」 「……」  オレは言葉を探すけれど見つからない。何も言い返せずオレは食べるのを止めた。 「アプリは飽きられたら終わりだし、うちの会社ならではの特色が無いものは作っても意味はないぞ」 「……はい」  オレは課長の言葉に小さく返事をした。テーブルに置かれた企画書を鞄にしまうとオレは食事を再開した。 「この手のモノを企画するなら、まず他社がどう云うアプリを出しているのか、特色はなんなのかちゃんと下調べをする事」  下調べ……確かに怠っていたかもしれない。 「今アプリは溢れているからな、オリジナルを作るのはかなり厳しいと思う」 「どうしたらいいですか?」  オレはようやく口を開いた。課長は人差し指で眼鏡を弄るとこう続けた。 「実際、自分でアプリをインストールして使ってみるのも手だな。それが一番分かりやすい」    使ってみるか……なるほど。全然やっていなかったな。 「何も全部入れろって言ってないからな? 例えば自分が作りたいアプリがあるとする。それを企画したいならまずどの会社のモノが良く使われているのか調べて人気のモノをいくつかチョイスして使ってみる。実際使ってこんな機能があったらとかもっとこう云う方が良いとか出てくるからそれを元に企画書を作ってみるんだ」   「はい」 「俺も聖夜も最初はそうやっていたもんだ」  あの聖夜も? そうなんだ……。同期もそうなのかな? オレは最後の一口を口にしてハンバーグを食べ終えた。 「一之瀬もとりあえずやってみろ、何かしら閃くはずだ。新しい物は慣れてきたら挑戦すればいい」 「はい」  オレは素直に課長の言葉を訊く。難しい顔していた課長も、食べ終わる頃にはいつもの表情に戻っていた。とにかく聖夜に認めてもらいたい。頑張ってみよう。昼休みが終わる頃にはそんな風に思えた。結局お昼は課長が奢ってくれたのでオレは素直にお礼を言った。  オフィスに戻ると、昼休憩から続々と社員が戻って来る。聖夜の姿は未だにない。また会議中なのかな? お昼食べられていないんだろうか?そんな事を思いながらもオレは今日しなきゃいけない業務に取り組んだ。聖夜が姿を見せたのは二時を回った頃。相変わらず難しい顔をしている。駄目駄目今は仕事に集中。オレは自分に言い聞かせて仕事に集中した。

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