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出逢い 12
徐に懐からジッポーを取り出した京さんは、静かに煙草を蒸し始めた。
「…その後はお前も知っている通りだ。お前と出会って、家を出て行った」
ゆっくりと煙を吐きだす彼の瞳は僅かばかり虚ろだ。
翠の生い立ちについて何を言えばいいのか、京さんに何と声をかけるべきなのか。
定まりきらない答えは、喉の奥に沈んでゆく。
──それでも。
「…これを聞いて翠への見方はどう変わる」
その言葉に反射的に顔を上げたのは
翠に対して変わらぬ思いがあったからで。
「なにも、…変わりません」
掠れるように出たそれが、酷く情けない声色だったとしても。
「ならやる事はひとつだ。…死んでも取り返す」
「…はい、」
翠を守れるならば、
何だって良いと思えた。
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