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前編

ある魔法使いが奴隷市場を訪れた。 別に奴隷が欲しくて来たのではなく、「珍しいのがいる」と聞いて見物に来たのだった。 「店主、珍しいのがいると聞いたんだが」 「珍しい?・・・ああ、ありゃただの売れ残りだよ。魔法使い(あんたら)には珍しいのかね。裏に繋いであるから見てくるといい。買ってくれりゃなおいい」 店主の許しを得て、店の裏へ回る。 すると、外の杭に鎖で繋がれた少年がいた。 「ふうん、確かに珍しい。だが・・・人には気味悪がられるだけ、か」 重い鎖を首に巻かれ、杭の側で地面に伏しているそれは、銀糸の髪に紅い瞳をした呪われた龍の血(ドラゴンブラッド)と呼ばれる忌み児だった。 人間には稀にこのような子どもが生まれるが、(わざわい)を呼ぶとして親に捨てられ、長生きする者は少ない。 一部の魔法使いには、魔力を溜めておく器として重宝されるのだが。 「お前、名前はあるか?」 「・・・なぃ・・・です・・・」 「では俺が付けてやろう」 結局、この忌み児を買った魔法使い。 器としても使えるが、何よりその愛らしい姿が気に入ったからだ。 魔法使いはその呪われた竜の血(ドラゴンブラッド)にヴェセルと名前を付け、存在意義を与えた。 常に傍におき色々な事を教え、時にヴェセルの肌に触れては戯れる。 「ぁ・・・んっ、先生・・・っ」 「そろそろ、器として機能する頃かな」 「は・・・ぁん・・・っ、ぅ・・・つわ・・・?」 魔法使いは、未だ幼さの残るヴェセルに自身を咥えさせ、口淫を教えた。 魔力の宿る精を飲み下すことで、ヴェセルに己の魔力を溜めさせるのだ。 「・・・んっ、・・・ふ・・・んぐ・・・っ」 「溢さず飲めよ」 上手く出来たら褒めてやり、ヴェセルが悦がるところを撫でてやる。 「んん・・・っ、せんせぇ・・・っ」 「イイ子だ」 魔法使いの精を与えられるようになると、ヴェセルの成長はまるで止まったかの様に緩やかになった。 人より寿命の長い魔法使いと同じ時を刻めるように。 「先生、依頼のあった薬は出来ましたか?」 「ああ・・・もう少し・・・・・・」 「さぼらないでください」 「可愛い顔して、ヴェセルは厳しいなあ」 魔法使いが造った薬や道具を、依頼主へ売りに行くのはヴェセルの仕事だ。 納期が遅れれば文句を言われるのもヴェセル。 最初はただ理不尽に叱られ、泣きながら帰ることもあったが、帰ったヴェセルを慰めるのが魔法使いの楽しみでもあった。 「ヤバい相手ほどわざと納期遅らせるのやめてくださいって言ってるじゃないですかっ!」 「ヤバい相手じゃなきゃ、お前を泣かせられないだろう?ほらおいで、慰めてやるよ」 成長の滞った身体とは裏腹に、精神的にはすっかり大人になったヴェセル。 そのヴェセルを泣かせるために、他の魔法使いが手を出さないような危ない依頼を受けては、納期を過ぎた頃仕事に取り掛かる魔法使い。 「何のために俺を泣かせたいんですか・・・」 「ナンのために?そりゃあ、慰めるために決まってるだろう?」 「呆れた人ですね」 「魔法使いだからね、人でなしだよ」 この可笑しくも穏やかな日々が、延々と続くのだと思っていた。 魔導狩りが始まるまでは───。

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