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後編

「先生、薬草(ハーブ)屋が店を閉めるそうです」 隣街に魔導狩りが出てから、魔法使いとヴェセルは街を離れ、深い森の中に小さな小屋を建て暮らしていた。 魔導狩りは魔法を扱う者を危険視し、逆らえば命を奪うという過激派だ。 噂では、次期国王候補が己の力を保持するため、従わぬ魔法使いを抹殺しているのだという。 魔法使いと取引があるような店も魔導狩りに襲われるため、みな店仕舞いしてしまった。 「そうか。ついに最後の取引先が消えたか」 ヴェセルの心配を他所に、魔法使いは呑気に茶をすすっている。 森の深淵に来たのも、魔導狩りを恐れたのではなく、街に居れば周りに危険が及ぶ可能性があると考えたからだった。 「先生は、魔導狩りが恐ろしくないんですか?」 「魔導狩りねえ・・・所詮、人だろう。人でなしの俺が何故恐れる必要がある」 そう言う魔法使いとは違い、ヴェセルは魔導狩りを酷く恐れていた。 魔導狩りを恐れぬ魔法使いの様子にも、不安を覚えている。 彼は、死ぬ気なのではないかと。 「先生・・・先生は、死ぬのが恐くないんですか・・・」 「死か・・・身近に感じた事がないからなあ・・・恐いとは、思わないな」 死から遠く離れた存在である魔法使いは、死が訪れるのを楽しみにしているようにも見える。 それが、ヴェセルには堪らなく恐ろしく、悲しかった。 「どうか・・・死なないでください」 魔導狩りが、東の大陸で最も優れた魔法使いが森に居る、という情報を手に入れた。 大軍で森へ向かっていると、街へ食料調達に来ていたヴェセルに教えたのは元薬草(ハーブ)屋だった。 「先生っ!!」 急いで帰ったヴェセルの目に、従う事を拒み独り応戦する魔法使いが映った。 魔法使いはちらり、とヴェセルに目をやったが構わず、幾重にも浴びせられる矢と剣を詠唱せずに撃ち落としながら、更に森の奥へと入っていく。 「──我が(あるじ)(めい)において我が爪に宿れ、呪われし竜の殺意(ドラグマーダル)──!」 自身に溜められた魔力を使い、両腕を竜のそれに換えたヴェセル。 黒い炎を纏った凶悪な爪が、魔法使いを追う魔導狩りたちを薙ぎ払い、まるで紙人形の様に焼き尽くしていく。 「先生・・・っ!」 「ああ、まさかそんな技を使ってまで追ってくるとは。見せたくなかったのに」 どんなに能力が高くとも、多勢に無勢。 魔力を使い果たした魔法使いが、今まさに心臓を貫かれようとしていた。 ここまで追ってきたヴェセルも、既に借り物の魔力を使い果たしている。 「ヴェセル、目を閉じなさい」 愛するヒトが、目の前で殺される。 最も恐れていた事が、現実になろうとしている。 彼を失うのは、自分が死ぬより耐え難い。 「・・・・・・ヴェセル、なぜ・・・」 呪われた竜の血(ドラゴンブラッド)は自らの命を腕に喰わせ全ての敵を薙ぎ払い、(カラ)になった自らの身体で主を庇って背中から貫かれた。 「俺みたいな人でなしのために、お前がこんな思いをする必要はないんだよ」 「せ・・・んせ・・・生き・・・て・・・ほし・・・」 「・・・バカな子だ。お前なしで独りで生きて楽しい訳がないだろう・・・」 魔法使いの腕の中で、血と体温を失っていくヴェセル。 冷えていく愛する者を、魔法使いは強く抱き締めた。 そして。 「可愛いお前を独りで逝かせたりしないさ」 ヴェセルを強く抱いたまま、彼を貫く剣の柄を握り、己の心臓まで深く深く突き刺した───。

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