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ノリト先生の弓道指導!

 ちょっとだけ眉根を寄せながら緊張した面持ちの吉川を見て、何気に可愛いなと思いつつ弓矢を手にした。 「危ないから、ちゃんと僕の言うこと聞かなきゃダメだよ。分った? 吉川」  大事な恋人がケガをしないようにきちんと注意を促したのだけれど、僕が背後から寄り添うように身体を近づけた瞬間、吉川を包んでいた空気が変わった。  どことなく、熱が上がった感じ――それは僕自身も同じだからなのかな。一緒にいることが少なくなったからこそ、こうやって密着することのできる機会は地味に嬉しかったりする。  ニヤけそうになる口元を必死に引き締めて、奥歯をぎゅっと噛みしめた。 (僕は今、吉川の先生をしているんだ。不埒なことを考えてはダメ!)  少しだけ頭を振って、改めて吉川に話しかける。 「えっと、基本の持ち方から教えるね」  大きな吉川の手をそっと握ると、なぜだか耳の先まで赤くした。  ――吉川ってば、何を考えてるのやら。 「縦と横の身体の軸がブレないように注意しながら、おへその周りに気力をためて、しっかりと集中するんだよ」  赤らんだままの吉川に指導すべく強い口調で言ったのに呼吸が荒くなって、はぁはぁしてるし……。その内、鼻血でも出すんじゃないだろうか。 (――これってばお約束のネタだね) 「もぅ、吉川ってば。ちゃんと聞いてるの? 真面目にしないと教えないよ」 「最初の説明はちゃんと聞いていたんだけどさ、ノリの存在が大きすぎて、ちょっと別なこと考えちゃって」  呆れまくった僕の言葉にやっと我に返り、しどろもどろのいいワケをした。  ちょっと別なことって、聞かなくても分かってるけどね。まったく、吉川のスケベ! 僕までムダに、顔が赤くなってしまったじゃないか。  頬の熱を感じながら、はーっとため息をついてみせる。 「僕は今、吉川の先生をしているの。だから他のことは、どこかに除けてくれないかな。じゃないと、教えられなくなっちゃうから」 「わりぃ、つい、な。ノリ先生、もう一度ヨロシク頼む」  彼の口から出た、ノリ先生という言葉が嬉しかった。またまた顔が赤くなってしまうぞ。  吉川がいつも言ってる、うっすら笑いをしながら、優しく指導をしてあげる。 「こんな感じで大丈夫か?」 「うん、バッチリだよ。姿勢をまっすぐに保たせて、そのまま矢を射てみて」  ひとりで弓を引かせるべく、脇正面から吉川の姿を見た。  きりりとしたカッコイイ顔を僕の心の中のなかにあるカメラが捕らえて、自然とシャッターが切られる。サッカーをしてるのもステキだけど、こうやって武道をしてる姿も惹かれてしまうな。  胸の疼きを感じていると、大きく弓を引いた吉川が勢いよく矢を放った。  キンッ!  いい音を鳴らして弓から放たれた矢は、まっすぐ的にむかって飛んでいく。  ガツンッ! 「……ありゃ?」 (小首を傾げて僕を見る、その顔もなかなかいいものだね。さっき吉川が放った矢は、しっかりと僕の心に刺さっているよ)  なんていう感想をコッソリと内心で述べつつ、にっこり微笑んであげた。 「きっと的枠に中った音だよ。だけど矢が的枠の外に出てたら外れで、的の中に入ってたら中りだからね。確かめてみよう?」  弓を弓置きに戻して、ふたり並んで矢道を歩く。  隣にいる彼を見上げると僕の視線に気がつき、柔らかく微笑んでくれた。絡まる視線がお互いの想いを、更に絡めていく――。  28メートルという距離が、短く感じられた瞬間。ただ並んで歩いているだけなのにね。  そして吉川が狙った的の前に跪き、矢の刺さり具合を見てあげた。 「やったね、吉川。初めての弓道で中てちゃうなんて、君ってセンスあるよ、すごいね!」 「おー、サンキューな、ノリ!」  喜び勇んで立ち上がると、待ってましたといわんばかりに僕に抱きつこうとする。予想を裏切らない行為に、さっとその身体をかわして、大きな背中を叩いてあげた。 「弓道は武道なんだよ。サッカーみたく、抱きつかないんだから。喜びを心の中で、じわぁと噛み締めて下さい」  そんな僕はいろんなものを、じわぁって噛みしめているのだ。カッコイイ吉川をたくさん見ることができて、本当に幸せだったりする。  なのに吉川は不満げな顔して、やさぐれてしまった。む……強く背中を叩きすぎたかな? 「困った生徒だね、吉川は」  そんな顔をされたら、何かしたくてしょうがなくなるじゃないか。  宥めるようにくちゃくちゃと頭を撫でてから、自分よりも背の高い彼に、掬い上げるようなキスをちゅっとしてあげる。 「中ったご褒美だよ、まったく……」 「(* ´Д`*)=3」 「デレデレした顔をしないで、しゃんとして下さい吉川!」  僕が怒っているのにもっとご褒美を寄こせと、目で訴えているのが見てとれた。 「吉川……君って人は、もぅ」 「ノリが可愛い顔しながら、俺にちゅーしたのが悪いんだぞ。責任はお前にある!」 「だって明後日、明々後日! せっかく褒めてあげたのに、不満げな顔をした吉川が悪いんじゃないか! そういうのがイヤなんだよ、久しぶりに一緒にいられるのに」 「そういうお前も、ひどいことしてる自覚ないだろ」  腕を組んで俺を見下ろす、その視線の冷たいこと。 「何かしたっけ?」 「ノリってば先生のクセに胴着をわざと着崩して、生徒である俺のことをちゃっかり誘ってるんだろ?」  その言葉に、自分を改めて見てみると――。 「ゲッ! 胸元が……」  吉川の指導ができると思って喜んで急いで着替えたせいで、胸元がガバガバに開いた状態だった。 「ノリが動くたびに、鎖骨やら何やらをチラチラ見ることができて、俺ってば、いろんなモノを抑えるのに必死だったんだぜ。久しぶりだったから、尚更」  胸元を押さえた僕の顔を、覗き込むように見る。 「頑張った俺に、ご褒美ください。ノリ先生」 「わっ、分かったよ。しょうがないな」  そんな風に強請られたら断れないのが分かってて、迫ってくるんだ。この確信犯め!  僕はしっかり周りを確認してから吉川の手を握りしめると、部室に向かって引っ張ってあげた。  本当はもっと吉川が弓道をする姿を見ていたかったけど、それはまたの機会に伸ばしてやろうっと。  だって、今は――もっと傍で吉川を感じていたいから。  繋いだ手にぎゅっと力を込めて、寄り添うように歩く。それに応えるように、煌も握り返してくれた。  道場の後片付けは後回し。まずは吉川と一緒に、身体のメンテをしなくちゃね。  なぁんて思いながら、弓道部の部室に消えたのでした。  めでたし めでたし(・∀・)

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