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ミルフィーユ ㊤
生徒会長岩泉×健気及川
岩泉ver.
挨拶運動として、毎朝校門の前に立つ。おはようと声をかけながら、風紀委員の手伝いもする。
「おはよ、いーわちゃん。」
厳粛に取り締まる中、髪は染め、ピアスを開け、服は指定されたものを着ていない、銀の鎖のネックレスもどれもこれも規則違反な奴がやってくる。
案の定すぐに生徒会担当の松川先生に捕まり、あれこれと説教を受けているが平気な顔をしてほとんど聞いていない。
「あー、マッキーうるさいな。そんなんだから彼女いない歴イコール年齢なんだよー。」
その言葉でさらに松川先生を怒らせたその男は、逃げるように校舎に入っていった。
「ちっ。」
舌打ちを打ちながら松川先生が帰ってくる。大変だなと同情の目を向けていると、まゆを潜めて嫌そうな顔で睨まれた。八つ当たりか。
学年一の問題児であるあいつの名前は及川徹。
黙っていれば爽やかな好青年。顔のパーツは整っていて、異常な程にオンナにもてる。
ただ、毎日どこかしら怪我をして学校に来る。他校の連中と夜な夜な喧嘩しているらしいが、本当のところはよく知らない。治療という言葉を知らないのか、剥き出しになっている傷跡は生々しくて見てられない。
そんな俺は、あいつがすごく苦手だったりする。
あいさつ運動を終え、教室に向かう。松川先生に頼まれた教材を運び、机に置く。いい子すぎるのも疲れるけど、及川みたいになりたいのかと言えばそれも違う。机に座り、小説を取り出した。まだ時間はあるな。
「岩ちゃん、なにしてるの?」
持っていた本とかけていたメガネを取られ、及川がプラプラと俺の前でぶら下げながらわざとらしく笑う。
「読書だけど。」
「楽しいの?」
「おう。」
「・・・ふーん。」
それだけ言うと教室を出る。いつも何を考えているからないあいつは、よくこうやって俺からものを取ってはそれを興味なさげに見る。
最初は、規則違反の罰則の帳消しを頼みに来たのかと思ったが、それも違うし、じゃあ、読書がしてみたいのかと言われるとそれも違う。
及川は俺の隣の席だ。授業は移動教室の際はめんどくさいのか絶対にこない。今月に入ってやっと、出席日数が上がったぐらい前は学校に来てなかった。
一時間目は教室で授業をした。
「あー、及川?」
「何!岩ちゃん。」
ガバッと顔を上げて嬉しそうにする及川に、「それ」と指さす。
「本、読んでるのはまーいいけどさ、逆だろ、どうやって読むんだ。」
「え?・・・あっ」
ページは半分ぐらいまで進んでいるのに本は逆。絶対読んでないだろ。
「こ、この本はほらあれだよ。・・・えー。あ、先生に見つかってもさ、寝るとか授業サボるとかよりいいかなって思っただけで。」
なるほど、それで俺から本を取ったのか。それからもじもじと訳のわからんことを言い出して、先生もちょっとイライラしているようなのでとりあえず無視しておく。
まぁ、授業に出ないよりはずっと真面目だと思うし、読書は楽しいものだし。先生に怒られたくないなら格好も直せばいいのにと、柔らかにはねる髪にあてられた光に目を閉じた。
嫌いで、苦手で、どうしようもないのに、いつの間にか目で追っている自分がいる。本当は怪我だって心配だけど、それすら言えない。何でかもわからないけど腹が立つ。見ているとイライラする。
及川に出会ってからむちゃくちゃに荒らされた中身は、元に戻るんだろうか。会いたくないのに会いたいと思っている俺は一体どうなってるんだろう。
「岩ちゃん、帰るの?」
放課後、今日は生徒会もないし、部活も休みだから何も無い日はすぐに帰る。帰ってバレーの練習がしたいし、テスト勉強だってあるし。
及川は動かず、俺を見る。図体はデカイくせして捨てられた犬みたいに耳を下げる。そんな様子に深いため息をついた。
「お前も帰るか?」
「うん!」
そう言ってやっと尻尾を振る。強引さが取り柄なくせに、中途半端なところで遠慮する及川の扱いが全くわからなかった。
大体話すのはこいつが振る話。俺は聞いて相槌打って、たまに返すぐらい。小鳥のようなうるささは相も変わらずだ。
「岩ちゃん。いつも俺と帰ってくれてありがと。」
「は?いつもじゃねーし。」
「俺が名前読んだら絶対帰ってくれるじゃん。」
そうだっけ?そんなの覚えてない、知らない。お前が誘ったんだろ、そうやって泣きそうな顔で。
別れる頃になると何か言いたそうな顔をしてこちらを見る。言いたいことがあるのかと問えば、言おうとはするものの結局最後はなんでもないという。
思い出した。確かに、この場面繰り返したことあるわ。帰り道、いっつも及川が俺の名前を呼んで口をつぐんで、何でもないって別れる場面。
何回目だっけ?これで10回目ぐらい?
なんで、嫌いな奴と同じことを繰り返してんだろう。もしかして、こいつが俺と帰りたい理由って何か言いたいことがあるからなのだろうか。
理由を知ったら及川とは帰らなくていいんだろうか。
「及川。俺に言いたいことあんだろ?言えよ。」
「えっ、あ。」
今日で終わりを告げよう。こんな会話、繰り返したってなんの意味もないんだから。
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