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メロメロ

「さとちゃん。夏休み帰らないの?」  俺はコウタロウにさんざんな目に合わされてぼ~としていた。返事をするのも億劫なんですけど。こんな可愛い顔して、なんでこんなに……こんなに……恥ずかしくて、言えない! 「ねえ、さとってば」  なんだよもう。ぐったりしてんだってば。 「さとちゃん??」  コウタロウが俺にキスをしたから、動けないのに意識が起こる。 「ん……」 「さとちゃん、話せるじゃない」  あのね、そんな顔してニヤリってしないでくれる?俺の中で何かが目を覚ましそうだ。 「使い分けんなよ」  俺が反応しちゃったのは、コウタロウが「さとちゃん」って呼ぶから。それって腰にくる。 「わかったよ。でもちょっとこのままで」  心地よい重みを受け止めて、俺はまたまどろむ。欲しいと思う相手が自分を抱きしめてくれるって、なんでこんなに幸せで涙がでそうになるのかな。  好きだと、思う相手にしか貰えない幸福感。誰かまわず寝てきた俺だからこそわかる。コウタロウの腕が今までのどんなものよりも安心できて心をざわめかせる。  俺の三白眼もすてたもんじゃない。幸せ気分で眠るって……ほんとサイコーだ。  このまま……このまま。  でもね、やっぱり目が覚めちゃうんだ。いい匂いがしたから。コウタロウがゴハン作ってくれる、いつものいい匂い。  起き上がるのは億劫だけど、空腹には勝てない。俺はベッドから床にずりおちる。そこにはコウタロウが作ってくれたご飯がテーブルに並んでいる。いつもズリズリ落ちるのは少々格好悪いがしょうがない。 「さとはいっつも、そうやって。ちゃんと起きればいいのに」  あのな!誰のせいで、動けないか知ってる?それも毎回、毎回!こんな可愛い顔して絶倫を装備しているなんて、どんなギャップ攻撃なんだよ。 「コウタロウのせいじゃんか」 「ん?」 「俺が動けなくなるのは、コウタロウがしつこいからだ!」  コウタロウの顔がいつもと違うものになる、俺が最近知った「大人顔」だ。俺はこの顔に弱い、というか怖い。俺の知らないコウタロウが覗く時間は、なんだかとっても居心地が悪い。 そう感じていることを黙っているのは嫌なので、言うことにした。 「俺、コウタロウのその顔が苦手」  一瞬顔が固まったあと、コウタロウの顔は俺の好きなニコニコ顔になる。 「うん、知ってたよ、さとが嫌いなのは」 「じゃあ、なんでそんな顔すんだよ!」  知っている?じゃあわざとそんな顔するってこと?それって意地悪じゃない?そうだよね、意地悪だ! 「僕がいくつから、さとを想っていたか知らないからだよ」 「いくつって?ハイ?」 「さとが僕を迎えにきてくれて一緒に学校にいった日からだよ。あの時ギュッて僕の手を握ってくれた。『少しは減るだろう?』って言ったんだよ、さとが。僕はあれから、ず~~とさとだけを見てきた。それが今は僕が手を伸ばせば、そこにいてくれるんだ。しつこくても何でもいいよ。僕はいつも乾いてるんだ、さとの存在を自分の全身で確かめても、それでもいつも乾いてる。さとが悪いんだよ、僕をカラカラにしたから」  あの、あの、あの……ものすごく恥ずかしいんですけど?ものすごく恥ずかしいこと言っていますよ?コウタロウさん?  俺は顔面どころか全身火だるまのように赤いはずだ!こんなこと言うなんて、こんなこと……反則じゃないか!おい!  ジタバタ悶絶していたらコウタロウの腕にすっぽり包まれた。 「ほんと、不思議だよね。僕の腕の中にさとがいるっていう現実にね、涙がでそうなくらい幸せになるんだ」  それって俺が思ってることと一緒じゃんか。もう! 「ん…」  俺はそれしか言えなかった。俺達二人のシアワセというものを実感。それに言葉はいらないよね。包まれる温かさと触れる肌の艶。コウタロウの匂い、互いの心臓のトクトク。  今までもそんなことは沢山目の前にあったのに俺は知らなかったんだ。涙がでそうになるくらいに向かい側の存在に心が震えることを。  醜い嫉妬が存在して、手のなかから滑り落ちそうになったら、どんなに格好悪くても縋っちゃうだろうなとか。そんなの意味わかんないなんて思っていたけど、今ならわかるんだ。  でも恥ずかしいから言わないおく。コウタロウのスイッチいれちゃいそうだし。これ以上は俺の身体がもちません!!!

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