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ガタンゴトン
「東京みたいな都会なら1時間半って通勤圏内だよね」
コウタロウが頬づえをつきながら窓の外を眺めてポツリと言う。
俺はコウタロウと一緒にJRに乗っている。スーパーホワイトアロー号。札幌から旭川まで1時間半の特急だ。時間だけみたら通勤圏内なのかもね。でも道民はそんな通勤しないよ。
「せいぜい通っても岩見沢までじゃないの?」
「え?そうなの?」
「よく知らないけど」
「さとと電車に乗ってどこか行くのは初めてだね」
あのおおお、どこかって、これ旅行じゃなくて「帰省」です。それも隣同士の実家に向かって。俺は心中穏やかじゃない。
だってさ、表向きは幼馴染が仲良く帰省な図だけどさ、実のところは恋人同士が一緒に帰る、みたいな、みたいな、みたいな!
憂鬱で、心配で、不安で、非常にナーバスなのは俺だけで、コウタロウはいつもどおり。余裕を見せられているような気がして何だかシャクに触る。
立場的に上だったのは俺だったはずなのに、ここ最近コウタロウに守られているような気がして落ち着かない、というか腑に落ちない、いや違うな……嫉妬か?あ~男の嫉妬か。プライド?う~~~ん。
コウタロウといるとシアワセなのに、その幸せを噛みしめるたびに、自分が弱くなっていくような気がするんだよ。恋愛ってそんなもの?世の中の人はそうなの?あなたもそう?(あなたって誰だよ)
「やっぱり席もどす」
コウタロウと向かい合わせだったけど、座席を回転させてもとに戻して隣に座る。
「どうしたの?」
「進行方向じゃない側に座ってると酔いそう」
どんどん背後から流れてくる景色は、俺の弱い三半規管を攻撃していた。
「やや気持ち悪い度がアップしてきた。寝る」
乗り物に乗ったらすぐに寝る。「乗り物」というものすべてに酔う俺は自衛手段で常に寝る。飛行機は離陸前に寝て着陸とともに起きる。地下鉄ひと駅でも寝る。
通路側に首を傾けて寝ようとしたのに、コウタロウが自分の肩に俺の頭を引き寄せた。ついでに手をギュっと握ってくれた。
くやしいけど安心したから俺は眠る。コウタロウの横で。
「こーちゃん!ひさしぶりね!」
かあちゃんは我が息子にではなく「お隣さん」であるコウタロウに第一声を浴びせた。
「ご沙汰しています。すいません迎えにきてもらって」
「バカ息子だけだったらバスに乗れって言うんだけど、こーちゃんなら話は別だわ」
豪快に笑いながら話す母親を見て思う。親子ともどもコウタロウに囲い込まれていませんか?これでいいのですか?
.「助かります。さとがちょっと酔ったみたいで」
「寝てれば治るわよ。ほんと、この子乗り物に弱くてね」
どんどん車にむかって歩く母ちゃんの隣からコウタロウが後退してきた。
「さとちゃん、顔青いね、大丈夫?」
俺の手から荷物を取り上げたとき、コウタロウの指が手の甲をかすめる。『さとちゃん』ってコウタロウが呼ぶ時は、本当に俺を想っている時なんだよ。まあ、たいていはHしてるか、その前後で……その……あの……モゴモゴ。
「いいよ、持てるから」
とりあえず何か言わないといけないので、言ってみた。コウタロウは、笑ってる。
「ここではさ、『さとちゃん』のほうが自然だよ。ずっと僕そう呼んでたし。さっきおばさんに「さと」って言ったけど違和感あった。こっちではずっとさとちゃんにしようかな。いっそうのことさ、さとちゃんって呼ぶことにしよっかな、札幌に帰っても」
俺は何も言えない。別に「さと」でも「さとちゃん」でもどっちでもいいんだよ。たださ「さとちゃん」って言われると、心臓とか胃の上あたりがチリチリするんだ。それでどうしようもなくなってしがみつきたくなる。
しがみついても自然なシチュエーションな場合(まあ、一緒に寝ていたりとか、あの……その……な)は問題ないけど、メシくってたり、学校だったり、まあ、普通の時にはしがみつけないだろ?だから困るんだよ。
俺、どんだけコウタロウが好きなわけ?そんな自分が嫌なんだよね、制御できないって困るしさ。自分が自分と切り離されているようなのは嫌だ。うまくいえないけど
コウタロウはそんなこと知らないんだろうな。いや、さっきの大人顔をして「知ってた」というかもしれん。
よくよく考えたらコウタロウの話をちゃんと聞いてやったことがないような気がする。俺がいっつも聞いてもらっているよな。
コウタロウはニコニコして聞いてくれて、のほほ~~んとしているくせに大人な意見をいうわけだよ。かなわないんだよ、何事もね(おまけに絶倫だし)
「何か飲めば治るかな」
「いや、大丈夫」
乗り物酔いで気持悪いだけじゃなくってさ、なんだか不安なんだよね。なにもかもが。よく言うよね、成就してからが恋の始まりってさ。大丈夫なのか俺!誰か教えて!
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