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聡の兄、影の薄い父登場

「あいかわらず、こーちゃんはかわいいわね」  家につくなり母ちゃんが言った。あのね「息子よ!元気だったのか?」ぐらい聞けっちゅうの!こーちゃん、こーちゃん連呼かよ。 「ん、だな。でも俺より大人だよ」 「そんなの知ってるわよ」  あっさり返された。松田がここにいたら、床に転がって笑っているだろう。 「でもまあ、よく帰ってきたよ。久々に顔みたけど元気そうで安心したわ。今日はお父さんも早めに帰るようなことを言ってたしね。なにか食べたいものある?」  コウタロウにおいしいものを食べさせてもらっているし。正直母ちゃんの料理より旨い。しかし息子としては何かリクエストせねばなるまい。 「ん~鍋とか?」 「さとし、あんたね。今夏なんだけど」  でしたね、そうでした。でも母ちゃんの飯って…黙(鍋が一番無難な選択ナノデスヨ) 「スキヤキがいいな、最後うどんで」 「すきやきね。あったかしら、ビン」  たぶんスキヤキのワリシタが普通につくれることを知らないのだろう。俺も知らなかったし。紀伊家では「すきやきのタレ」なるビンが必須アイテムなのだろう。コウタロウはビン使いません。一応報告しておくよ。  俺って、どんだけコウタロウ馬鹿なのかな。タロコンって大正解。  晩飯にアニキも合流して久しぶりの一家団欒になった。アニキは俺と一緒の三白眼。彼女と暮らしているけれど、まだ結婚していない。事実婚にこだわっているらしく、籍はいれないらしい。兄貴曰く「世間の『同棲』と一緒にしないでくれ!」ってことなんだけど…正直どうでもいい、俺的には。 「そんで、さとしはコウと帰ってきたわけ?」 「へ?」 「相変わらず、かわいいわ~こーちゃん」  アニキは薄々俺の性癖を感じとっている…と思う。コウタロウのこと疑ってないといいけどな。コウタロウは本気でアニキを兄と慕っているしね。かあちゃんは能天気にカワイイを連発してるけど。 「かあさん、これ、既製品だろ?」  うわ、アニキ、そんなこと言わなくても! 「そうよ~だってお父さんが、これでいいっていったの」  ん?なに? 「とうさん、いいってなにが?」  アニキがたたみこむ。 「ん~、いいじゃないか、無理だっていうものはさ」  無口な父ちゃんが口を開いた。無理?なにが? 「私ね、料理がほんと苦手で、最初頑張って作ったのよ。でもね、まずいものしかできなくて。そしたらお父さんが、既製品を使えばいいじゃないかって。だから甘えて既製品なの」    母ちゃん、堂々の宣言。  世の中に沢山の種類の食べものがあることや、家庭の味ってものがあるらしいとか、俺最近知った。だって松田の作ってくれた味噌汁のほうが永谷園より旨い!まちがいない。(コウタロウのほうがさらに旨いけどね~♪)  ゲンナリした兄貴。 「聡。やっぱりさ、胃袋を釣られたいよな」  うわ、そんなこと言わないでくれる?俺コウタロウに餌付けされてる!むしろ望んで! 「ど、どうなのかな」    兄貴の何か言いたげなニンマリ顔を無視する。俺は思いをはせた。隣のコウタロウ家の食事はさぞかし旨かろう……と。 「あんたいつまでいられるの?」  夕食のあとソファに転がっていたら母ちゃんに言われた。そういえば全然決めていなかった。コウタロウはどうするんだろ。 「わかんないけど、3日くらい?」 「あ、そう」  あ、そうって。もっといれば?行きたいところある?とかさ、色々あるでしょう。普通。 「さとしは彼女いないの?」  俺はソファでビクっとした!悪い夢で落ちる時みたいに、ビクっと。 「はあ?」 「めずらしく帰ってくるなんて言うから、ちょっと期待してたのよ。でも、こーちゃんと一緒だったわね」  あの……あの……その……それってどういう意味ですか?コウタロウと帰ってきたって、そんな意味深デスカ?単純なガッカリ?それとも何か勘ぐってらっしゃいます?母上。 「一緒だとだめかよ、ずっと一緒だろ、小さい頃から」 「まあ、顔が見られてよかったよ。さて母さんも飲もうかな。あんたつきあいな」  結局母ちゃんと酒を飲み、飲み、飲まされ、飲んで……そのまま記憶がなくなった。  俺って学習能力ゼロだわ。自分に呆れた。

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