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トラウマ③
『Ωだから』とバカにされ、蔑 まれ、疎まれ続けてきた。
そんなバースがαよりも上だったと認められた。
何だか変な気分。
急にそんなこと言われても。
俺は俺で変わりはないのに。
「おーい、麻生田君!この書類、午前中に頼むよ!
今日締切りだった…忘れてた…」
「わかりました。…けど次からは締切りちゃんと確認してくださいねっ!」
「はーい!じゃあよろしくー!」
「麻生田君、これ総務に頼むよ。」
「はい!橋田さん宛ですよね?」
「うん、そうそう。じゃあ、行ってきます。」
「お気を付けて。行ってらっしゃい。」
ドタバタドタバタとそれぞれに慌ただしく外出して行った。
いつもの日常が戻ってきた。
あの誘拐騒ぎプラス俺の発情期 が重なり、久しぶりに出社してから二週間が経った。
今思い返しても、あれは夢だったのじゃないかと思うこともある。
それでも、時々思い出したようにあの誘拐事件のことが取りざたされたりする度に、あれは本当だったのだと思い知らされる。
トラウマになってない と言えば嘘になる。
実際、定期的に病院へも通っている。
平気なように見えて、その実、かなりのダメージを負っていたようだった。
あの時の恐怖が蘇り、身体が震えて泣き出してしまうことがあるから。
そんな時、継はただ俺を抱きしめてくれ、その温もりと匂いに癒されては、落ち着きを取り戻すのだった。
俺の流す涙を震える身体を…継はどんな思いで受け止めているのだろうか。
いつになったら治るのだろう。
不安を抱えたまま、その日その日を過ごす。
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