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トラウマ④

昼休み… 継の待つ社長室へと向かう。 この時間… どくっ と心臓が跳ねた。 マズい。 “また”発作がくるっ。 フラッシュバックする記憶。 怖い、怖い、怖いっ ノックもせず飛び込むようにして社長室へ。 「詩音?」 真っ青な俺を見て、継が俺を抱き留めた。 「詩音、俺は“ここ”にいるから…大丈夫。 どんなものからも守ってやるから…」 篠山さんが一礼してそっと出て行った。 震えが止まらない俺の身体を継が優しく撫でてくれる。 髪の毛に 額に 頬に 鼻に そして唇に… 順番にキスされ、大きな逞しい胸に抱え込まれて、大好きな匂いに包まれ… やっと、落ち着いてきた。 「継…ごめんなさい…どうしても…俺…」 「詩音、自分を責めるな。 辛いなら遠慮せずにいつでも俺のところへ来い。 動けないなら電話しろ。 俺が必ずお前を守る。」 ぶわりと芳香が俺に纏わりつく。 ふふっ、匂いまで粘着質なのか… 「継、ありがとうございます。 …もう、大丈夫です。お弁当、食べましょ?」 「あぁ。もう、腹が減り過ぎて倒れそうだ。 ん?どれどれ…おっ、今日も美味そうだな。 いただきます。 んっ、美味いっ!詩音の料理はサイコーだな。 …詩音?どうした?」 「こうやって…継と過ごす時間が…愛おしくて…うれしくて…ぐすっ、すみません…うくっ、うっ…」 「ふふっ、俺の嫁は泣き虫だなぁ。 ほら、おいで。」 継の胸にぼふっと飛び込むと、胸一杯に愛の香りを吸い込んだ。 あぁ…何て幸せ… 継は俺を横抱きにして 「ほら、あーん。」 と卵焼きを口に放り込んだ。 「かわいいなぁ…子リスみたいだ。」 むうっ と膨れたフリをして、継に抱っこされたまま、お弁当を完食する頃には、あの嫌な感情はどこかへ消え去っていた。

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