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トラウマ⑦
悲しい。
悔しい。
辛い。
愛する人にあんな風に言われるなんて。
『やっぱりお前はΩだ』と。
後から後から涙が溢れる。
もう、拭い取ることもできない。
帰宅を急ぐ人波と、徐々に賑やかさを増す夕方の風景が滲んで見えない。
急にあの大好きな匂いと、戸惑いを纏った継に腕を取られた。
「詩音、待って!」
「離して!」
「詩音、どうし」
「離してっ!!!」
継は、涙でぐちゃぐちゃになり、その手を振り解こうと暴れる俺を黙って抱きしめた。
鼻から肌から継に満たされて、俺は次第に対抗する気力をなくしていった。
「詩音、とにかく家に帰ろう…」
俺の肩を抱き寄せ腕をしっかりと掴んで離さない継に、抗うこともできずに、助手席へ座らされた。
お互いに無言だった。
俺は溢れてくる涙を止める術を知らず、嗚咽を堪えて泣いていた。
継からはまだ戸惑いと不安の匂いが流れてくるばかり。
やっぱり…
Ωの俺は、幸せにはなれないんだ。
ふと、子供を抱いた幸せそうな柚月さんを思い出した。
柚月さん、すごく幸せそうだった。
俺と同じΩなのに、どうして?
どうしてあんなに幸せそうなの?
俺は今まで、何か悪いことをしてきたのかな。
こんなに継のことが好きで、離れたくないと思ってるだけなのに。
愛する人に、ただ愛してほしいと願っているだけなのに。
そう思うと、また泣けてきた。
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