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トラウマ②side :継

人通りも気にせず詩音を捕まえた。 「離してっ!」 激しい拒絶。詩音… あぁ…悲しみの感情に塗り潰された俺の伴侶。 俺のせいだ。 暴れる詩音を抱きしめる。 次第に対抗する力がなくなっていった。 「詩音、とにかく家に帰ろう。」 抱き寄せる肩が震え、声を出さずに詩音が泣く。 車に乗せても、ひたすらに流れる涙に胸が潰れそうだ。 どうして俺はいつもこうなんだろう。 無神経? 空気読めない? 詩音のことを愛し過ぎて好き過ぎて大切にしたいだけなのに。 結局、詩音を傷付けてばかりだ。 こういうところが“お子ちゃまだ”と言われるのだろうか。 無言のまま自宅へ着いた。 手を取ると、びくりと手を引かれそうになったが、そのまま握り締めて部屋へ向かう。 詩音から…匂いがしない!? どうして?なんで? いつもの甘く狂おしい匂いがしない!!! 香るのは…悲しみの感情のみ。 詩音は戸惑う俺の手をそっと離すと、上着を脱いでキッチンへ向かった。 慌てて後を追うと、冷蔵庫からあれこれと食材を出して、料理を始めた。 「詩音、俺がするから座ってて。」 詩音はふるふると首を横に振ると、精一杯なのだろう、引き攣った笑顔を向けると料理をし始めた。 「…詩音…」 詩音はあっという間に料理を仕上げると 「熱いうちにどうぞ。」 と、勧めてくれた。 「…いただきます。」 無言の食事が進んでいく。 詩音は二口ほどで、食べるのをやめてしまい、ぼんやりと座っていた。 何か言いたくても、詩音の匂いでそれを拒絶しているのがわかる。 それにしても、あの俺を求める匂いがしないのは何故? 俺は一体どうすれば… あれこれ悩んでいるうちに、詩音はさっさと片付けを終えてしまった。 泣きはらした目元が痛々しい。

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