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落ち込み⑨
うっ…そうだった…
俺達番は…特に運命の番は、相手の匂いでその感情が手に取るようにわかってしまう。
じゃあ、俺の訳のわからない、この感情も全て継にはお見通しだったんだ。
「俺は詩音の望むようにしてやりたい。
詩音はどうしたいんだ?」
甘やかな匂いと優しい瞳に見つめられて、俺はまたぽろりと涙を零した。
「あっ、泣くな!詩音、泣かないでくれ!
責めてるんじゃないんだ!
あぁ…泣かせるつもりなんてなかったのに…」
いつになく継がおろおろと俺を抱きしめたり離したり、小さな子供をあやすように狼狽えている。
またふるふると首を振って
「どうしていいのかわからない。
継の気持ちはすごくうれしい。本当にうれしい。
みんなが喜ぶ顔が見たい。みんなにお祝いしてもらいたい。
でも…
なぜか不安でイライラして怖くって…
何もかも放り出して逃げてしまいたい…
俺、頭がおかしくなっちゃったのかも。
継、ごめんなさい…」
継は俺の頭をわしゃわしゃと撫でると
「詩音、多分それ、マリッジブルー…」
「えっ!?マリッジブルー?」
「夕べ、香川先生と伊織さんに聞いた。
情緒不安定なのは、それだよ。
それに、まだ番拒否症候群を引き摺ってるんだろう。
…俺は無理強いしたくないんだ。
詩音の気持ちを大切にしたい。
本当に嫌なら、さっきも言った通り、式は延期する。
親がどうだとか、そんなことは気にしなくてもいい。
何とでもなるから。」
「継…」
俺はぽすんと継の胸に頭をくっ付けた。
そして、おでこをぐりぐりと擦り付けて、両手を背中に巻き付けて、力一杯抱きしめた。
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