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お久し振りね side:潤④

「お疲れ様!後はよろしく!」 秘書殿の『お疲れ様でした』の『おつ』まで聞いて、俺は猛ダッシュで家路を急いだ。 待ってろ、右京!今帰るからな! 心は()くのに車は動かない。 くそーっ!人の恋路を邪魔する奴は、馬に蹴られて何とやらっ! 渋滞を呪い、ぷんすか怒りながらも、何とか家に辿り着いた。 「右京ーっ!ただいまーっ!」 ドアを壊さんばかりの勢いで、ドタバタと走り込み、右京を探す。 「右京っ!何処っ!?」 「お帰り。お疲れ様、潤… もう〜何だよっ!うるさいっ!」 「右京…」 目の前に、ちょっぴりおめかしした右京が現れた。 スーツ姿も久し振りに見た。 …俺がプレゼントしたネクタイを締めてくれてる。それだけで泣きそう… むんずとその手を掴むと 「お袋っ!あと、よろしく! 優…お利口にしててくれよ… 行ってきまーす!!!」 「ちょっと…潤っ!お義母さーん!助けて! すみません、あとお願いしますっ!」 優のほっぺにキスをして、右京の手を引っ張り連れ出した。 お袋が何か言っていたが無視した。 助手席のドアを開け、気取って言った。 「奥様、どうぞ。」 右京は少し頬を膨らませていたが、素直に乗り込んだ。 「晩飯を食べよう! お前のリクエストのフレンチにしたんだが…」 昨夜(ゆうべ)、一応確認したんだ。 そしたら右京が『フレンチで』って言うから、奮発してフルコース予約したんだぞ。 「うん、ありがと。 楽しみだな…で?何処に連れて行ってくれるの?」 「“le ciel(ル シエル=空)”。 番になって、初めてのデートで行ったよな…覚えてる?」 右京は、はにかみながら 「…当たり前じゃんか…俺、正式なフランス料理なんて食べたの、初めてで… ナイフとフォーク持って固まってる俺に、潤が一から教えてくれたんだよな。」 おおっ…いい雰囲気になってきた。

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