右京はにっこりと微笑むと、飛び切りのよそ行きの声で答えた。 「そうでしたか…主人がお世話になりましてありがとうございました。 家内の…麻生田 右京と申します。」 余裕綽々(しゃくしゃく)の満面の笑みと、ぶわりと威嚇のオーラが放たれている。 同じΩでも格が違う。 なんたって、右京はスーパーΩだ。 そこら辺のΩじゃあ、全く太刀打ちできない。 気圧されて一歩後退(あとずさ)り、引きつった笑みを浮かべた光は 「あっ、いえ、その、こちらこそ」 と、ごにょごにょ呟いて黙ってしまった。 昔のことを引っ張り出して、俺に恥をかかせるか、右京を軽く虐めようとでもしたのだろうが、とんでもない。 見事にバッサリと返討ちを浴びてしまったのだ。 「右京は俺の愛してやまない番なんだ。 君は？誰かと一緒なの？」 「えっ？あっ、うん。ダンナと…」 「そう。お幸せにね。じゃあ。」 光はぺこりと頭を下げて「じゃあ…」と、逃げるように別のテーブルに戻って行った。 やれやれ…昔のツケがこんなところに…何も“今日”でなくてもいいじゃん。 ため息をついて、視線を感じて前を見ると… さっきまでの甘い雰囲気は遥か彼方に消え去り、シラけた冷たい目をした右京が…いた… 「うっ、右京！昔のことだから。 お前と出会う前のことで、結婚してからはお前一筋だから！」 右京は黙ってコーヒーを飲み干すと 「ご馳走様でした。美味しかったです。 ありがとう。 …もう十分楽しませてもらったので帰りましょうか。」 えええーーーーーっ！！！ 「ちょっと！ちょっと待ってよ、右京！ 明日の昼まで俺たち二人の」 「ごめんなさい。そんな気分じゃなくなっちゃった。 …優のことも気になるし。」 「だから、ごめんって！ 優はお袋が見てくれてるから心配ないだろ？ なぁ…右京…ご機嫌直してくれよ… お前と出会う前は、かなり遊んだ。ヤンチャもした。それは認める！ でも、お前と結婚してからは俺はお前だけ！ お前しか知らない！」