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お久し振りね side:潤⑦
このチャンスを逃したら、二度と右京に触れることはできない。
何故かそんな確信があった俺は、なりふり構わず必死で訴えた。
「右京…お願い…帰るなんて言わないで…」
泣きそうに…いや、視界がボヤけてきてるから、実際泣いていたんだと思う。
カッコ悪くてもいい。
右京をもう一度俺のものにするためなら何でもする。
そんな俺を暫く眺めていた右京は、大きくため息をつくと尋ねてきた。
「…本当に…結婚してからは俺だけ?」
「当たり前じゃないかっ!
結婚してその日に、関係のあった奴らとは全て縁を切ったんだ!
疑うならお袋や新道さんに聞いてくれよ!
…俺、チャラいけど、右京一筋なんだぜ!?
右京しか目に入らないんだ…」
「…じゃあ…それ、証明してよ。」
「え?」
「『俺だけ』って言うなら…証拠見せてよ。」
横を向いて告げる右京の頬が赤く染まっている。
懐かくて…甘くて芳しい匂いがした。
「わっ、分かった!
すぐに、すぐに証明するっ!
だから帰らないで!」
俺はウェイターを呼ぶと、車の手配を頼んだ。
代金は既に支払い済みだから、すぐに移動できる。
右京の手を取り、席を立った。
光の席の横を通る時も、敢えて無視した。
瞬間、何か言いたげな視線が追ってきたが、すぐに消えた。
タクシーに乗り込むとホテルの名前を告げた。
右京は窓の外を眺めているが、手は振り払わなかった。
握る手に力を込め『愛してる』と念を送る。
ぶわりと絡まるフェロモン…久し振りの右京の甘い匂い…
右京が拒否しないのをいいことに、肩を抱き寄せキスを繰り返す。
最初は啄ばむように…やがてそれでは物足りなくなってきて、唇を舌先でノックして開いた隙間から捩じ込み、口内を貪り食った。
運転手の咳払いも耳に入らず、俺達は二人の世界に入っていった。
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