1 / 16

第1話

「うわぁぁぁぁぁ!!」 住宅街なのに! 都内の住宅街なのに!! なんでイノシシなんているの!? 目撃情報なんてニュース聞いてないし!こんな時に限って誰も通りかからないとか、もう!ついてない!! 「誰か助けてーーーー!」 ドーーーーン! はねられた。 都内の住宅街なのにイノシシにはねられた。場所は住宅街の中の大きな公園の端。高低差を活かした綺麗な公園。 その段差がまるで崖のように感じられた。 スローモーションで落ちて行くぼくの視界に最期に映ったのは大きなイノシシのドヤ顔だった。 うわぁぁぁん!! なぜかいつまでも地面に叩きつけられる衝撃が来ない。いや、痛いの嫌だから来ないなら来ない方が良いんだけど、いつかは来ると思うと恐怖が増す。極限状態に脳が全力を出すアレだろうか? 《余裕あるねぇ。》 こいつ、脳内に直接!…え?マジで??? 《マジだよ〜。君、向こうの世界から弾き出されちゃったみたいなの。偶然ね。偶然だからもう戻れないけど、せめてこっちの世界を楽しんで欲しいな〜。人と獣人の世界で魔法はないよ。性別は1つしかなくて、BLってやつだね。フタナリじゃないよ。あんまり不幸にならないように言葉に不自由しないようにと、無理やりいやらしい事をされない祝福をあげよう。じゃ、楽しんでね〜!》 ずいぶん軽いノリだったけど、あれって神様?あれが神様? まぁ、いっか。 あ!獣人のいる世界なら耳としっぽ触りたい!! 《君、そのままで可愛いから触り放題できるよ。もう会えないけどお幸せに〜!》 もふもふ天国!? 神様ありがとうー! ぼふーーーーん! 落ちた先はきれいな森だった。ふっかふかの苔のクッションの上。すごい、全然痛くない。 ぼくがイノシシにはねられた公園どころか、多分日本中探したってこんな苔クッション存在しないと思う。 ホントに異世界?とワクワクしつつ苔クッションから降りると人の足音が聞こえてきた。 「誰だ?お前。」 ふぉぉぉ!イケメンマッチョに狼耳!腰に剣?あ、しっぽフサフサ!!! 銀髪だー。 「通りすがりの者です。」 あ、イラついてる。真面目な人なのかな? 「ここは立ち入り禁止だ。通りすがる事がそもそも間違っている。」 そうなのか。強そうで真面目な人なら真面目に答えて甘えよう。 ぼくは正直に話した。 医者に連れていかれた。 しかも置いてかれた…。 立ち入り禁止の場所に居たのに監視は要らないのか。 あの人との絡みのフラグは立たなかったようだ。 「では君はこの世界の住人ではない?性別が2つ?植物や昆虫なら分かるが人間なのに2つの性があるの?でも見せてもらった君の身体は普通だよ?」 ほほう、異世界豆知識。雌雄があるのは植物と昆虫だけ。 …マジか。 ぼくまだ童貞なのに、女の子のいない世界に来ちゃったのか…おっぱい触ってみたかった。別に雄っぱいでも良いか。 小ちゃい事は気にしないのがぼくの長所です。 「ホントかどうか分からないけど、身体は健康、怪我もない。誰か面倒見てくれる人がいれば良いけど、お金もないんでしょ?」 「誰か可愛がってくれそうな人いませんか?」 そう聞いたら吹き出された。 「可愛がってくれる人、ってどう言う意味で言ってるの?やばいよ。いやらしい事されちゃうよ?」 「した事ないけど、興味はあります。優しくしてくれるなら食事と一晩の宿で適正ですかね?」 「いや、お釣りがくるわ。」 神様が言ってたぼく可愛いは本当なのかな。 「じゃあとりあえず、一晩お願いできますか?」 お医者さんなら金銭的な負担も少ないだろうと言ってみたが断られた。 「ごめんね。うちの奥さんヤキモチ焼きだからこんな可愛い子連れて帰ったらぶん殴られるよ。」 とりあえず危なくなさそうな酒場を教えてもらって気のいい人を捕まえよう。ナンパだナンパだー! 石造りのかっこいい酒場。まだ時間が早いのか人の出入りはない。 店の前の石に腰掛けて待っていると、マスターっぽいダンディな人が顔を出した。ケモ耳はないから人かな? 「店はまだだけど、お客さん?それとも働きたいの?」 働くという手があったか。でも身元不明でも雇ってくれるのかな? 「ぼく、お金も無くて帰る家もありません。身元を保証する事も出来ませんが雇ってもらえますか?」 「ふーん。家出か迷子か。2〜3日なら雇っても良いよ。その後は働きぶりを見てからかな。」 良い人だ! 「|光雪《みつゆき》、16歳です。よろしくお願いします!」 「みちゅーき?みつうき?」 おしい!!でもダンディなおじさまのカタコト可愛い。 「みつなら言いやすいですか?」 「ミッツだな?分かった。16ならもう成人だな。客に勧められたら飲んでも良いけど飲み過ぎるなよ。」 ニックネームついた。 お酒、飲んで良いの?やったー! 仕事の説明を受ける。とりあえず注文の品を運ぶのと空いた席の片付け。後はテキトーだって。任せとけ! 椅子を並べてテーブルを拭いて、準備完了。 「く〜きゅるるるる…」 あ、腹の虫が自己主張始めた。 「ぶふっ、可愛い腹の虫だな。店開けてすぐには客も来ないだろうからその間に賄い食べとけ。」 マスターに笑われた。 照れ笑いしながら頷いてよろしくお願いします!と言った。 働かざる者食うべからず! って言葉をたった今思い出した。 店を開けてマスターが賄いを作っていると、お客さんが来た。 「おや?マスター可愛い子がいるな。」 丸い茶色の耳と太いしっぽのおじいちゃん。タヌキの獣人かな。 「いらっしゃいませ〜!今日から働かせてもらう事になったみつです。よろしくお願いしまーす!」 笑顔で元気に挨拶すると嬉しそうに微笑まれた。マスターが 「ご隠居、いつもの。」 と言って小さなグラスに入れたお酒とナッツのお皿を出したのでカウンターの奥に座るタヌキの獣人さんの所へ運ぶ。 ごゆっくり、の言葉に被さる腹の虫。 「く〜きゅるるるる…」 えへへ… 「なんだ、マスター食べさせてやってないのかい?」 「ついさっき雇ったばかりで今、賄いを作ってるんですよ。」 だったらここにおいでと言われ、ナッツを分けてもらう。美味しい。 ひと粒ずつ摘まんでいたらご隠居さんが可愛いと呟きながら身悶えていた。貧乏性ですが何か? 賄いをもらって食べたらそれも美味しい!パスタだ。美味しいので味わって食べてたら遅い、って言われたけどマスターの顔は緩んでいた。 次のお客さんが来てご隠居さん可愛い子連れてるね、って言った。口に入ったパスタを急いで飲み込んでいらっしゃいませ!って言ったら 「従業員だったのか、頑張れよ。」 って頭を撫でられた。えへへ…気持ちいい。 残りのパスタは急いで食べる。マスターが 「一口ずつ幸せな顔してるから遅いんだよ!」 美味しい物食べたら幸せになるのは当然!必然!仕方ない!! 「変な文句言ってんじゃねぇ!」 マスターが言ってみんなで笑い転げた。楽しい職場〜♫ だんだんお客さんが増えてきた。15人も入ればいっぱいのお店でほとんど常連さんばかりだから仲間内でワイワイやってるみたいな感じ。 しかもみんなが料理を分けてくれる。 うまー! マスターの料理うまー!! あ、そうだ。泊まるとこどうしよう? 「マスター、ぼく泊まるとこもないんですけどこれから行って宿屋さん泊めてくれますかね?」 小説ならお店の2階に泊めてもらえるけど、あいにくこのお店は屋根裏部屋しかなくて、埃だらけでとても寝られないみたいだ。どうしよう。 「じゃ、俺んとこ泊まるか?寝かせてやれねぇかも知れないがな。」 ネコ科のお客さんが話しかけて来た。 「泊めてくれるのに寝かせてくれないの?ぼく、ちゃんと寝たい。」 セクハラ的な冗談だろうけど、とぼけてみる。 「ナンパ野郎の口車に乗らない方が良い。」 マスターに止められる。 「じゃあ宿屋さんに?」 「いや…、この時間じゃあもう泊めてもらえないだろう。もっと早く言ってくれたら安心して任せられる常連に頼めたんだか…」 マスターの家も奥さん(獣人)が妬くからダメらしい。獣人さんのヤキモチと言えば番のあれかな?それともナワバリ意識かな? 「じゃあ俺のところで決まりだな!寝かさないってのは冗談だ。ちゃんと寝かせてやるよ。」 良かった、寝床が決まった。 店の片付けは明日だと言われ、ネコ科獣人さんについて行く。 山猫のヤマネさん。 そのままの名前なのに別の生き物になってるよ?でもナンパ野郎なんて言われるだけあってイケメンだ。 それはともかく、この世界にはシャワーがないので身体を拭くだけ。でも石鹸はあったので髪を洗わせてもらってさっぱりした。香油も塗ってくれたよ。ヤマネさん優しい。 そこで寝間着がない事に思い当たると、何も着なくても寒くないだろう?と言われてパンツ一丁でベッドに入った。ヤマネさんはさすが、しなやかな筋肉がついていてかっこいい。体温も高くてくっついてたらぐっすり眠れた。 翌日、ヤマネさんがどんよりしている。何か悪い事しちゃったんだろうか? 「ヤマネさん?どうしたんですか?」 「…………別に。」 どうしたんだろう? 会ったばかりでよく分からないけど… 低血圧かな? 元気ないのにちゃんと朝ごはんを食べさせてくれた。マスターのお店はお昼に行けば良いので仕事に行くヤマネさんを見送って別れる。 する事ないから散歩しよう。 町は全体的に石造りで道も石畳み。時々レンガの家やログハウスもある。雑貨屋さんをのぞいたけどお金持ってないから冷やかしだ。それはそれで貧乏旅行みたいで楽しい。 大きなお店の中にご隠居さんがいた。馴れ馴れしくして良いのか分からずうろうろしてたら手招きしてくれたのでお店に入る。酒屋さんだった。 「試し飲みするかい?」 そう言われてもお酒を飲んだ事がないと言うと驚かれた。こちらでは子供も飲むんだって。お言葉に甘えて飲んでみたら美味しい! 「果物のジュースみたいで飲みやすいのに少し喉の奥が熱くなって複雑な味もして、美味しいです!!」 小さなグラスで飲んだのでもっと欲しくなったけど試飲をガバガバ飲んじゃダメだ。でも他のお酒をくれた。今度のは香りも良くて美味しいけど口の中がかっと熱くなった。 「うぇ〜…こっちは強い〜…」 「ミッツはあまり強くない、甘いのが良いみたいだな。」 初心者ですから! もう一杯コーヒー牛乳みたいなのを飲ませてもらった。美味しかった。 ふわふわしながら歩いていたら知らない人に声をかけられた。まぁ、知ってる人が少ししかいない訳だけども。 この町は初めてで昼過ぎまで時間を潰したいと言ったら親切に観光案内をしてくれた。商業施設、困った時の保安官事務所、図書館、森の中のきれいな滝。 森に入る辺りからお酒が回ってふらついてきたぼくを抱っこしてくれる優しさ。 ありがとうございます、って言って頬ずりした所までは覚えている。気がつけばお店の前にいた。さっきの人はいない。 出勤して来たマスターに早いな、と言われて試飲した事と親切に観光案内してもらった事、あと昨日はぐっすり眠れた事を話した。 マスターは少し考えていたけど、すぐに店の準備を始めた。 今日も1番のりのお客さんはご隠居さん。昨日と同じ服を着ていたぼくに着替えがないのなら孫の古着をくれると言ってくれた。 今日もお客さん達から料理を分けてもらって幸せ。あーんてしてもらったから、あーんてして食べさせてあげたらお客さんには喜ばれたけどマスターにそう言う店じゃない、って言われた。 ご隠居さんが帰ってしばらくしたら若いタヌキの獣人さんが古着を持って来てくれた。とりあえず3着。また後で持って来てくれるらしい。しかも一人暮らしの部屋に泊めてくれると言う。おじいちゃんに頼まれたんだって。 「ありがとうございます!」 ご隠居さんめちゃくちゃ優しい!! お孫さんはお店が終わるまで待っててくれて、一緒にお家に行く。名前はキアヌさんだって。タヌキらしくふんわり優しい癒し系。 家に着いたらこれも必要だろ、って下着をくれたけどふんどし。締めたことがない。首を傾げていたら履き方をボクサーパンツの上に締めて教えてくれた。 お湯で身体を拭いた後、ふんどしにチャレンジしたけど上手くできなくて締めてもらった。丸出しの股間の前に人の顔があるのってめちゃくちゃ恥ずかしいね。 キアヌさんも気を使って顔を背けてくれてたけど髪の毛や体温にドキドキしちゃった。ぼく、BLに抵抗なかったみたい。 …勃たなくて良かった。 キアヌさんはパジャマを着てた。こっちの世界ではパンツ一丁で寝るものじゃないの? 「ぼくはパジャマないから下着だけで良い?」 そう聞くと良いんじゃないか?と言われたのでふんどし姿でキアヌさんのベッドに入る。 「か、簡易ベッドがあるから!」 と赤い顔で言われたけど知らない場所で1人で寝るのは寂しいからだだをこねた。ぎゅうぎゅう抱きついて足も絡めて涙目で上目遣い。キアヌさんは諦めて同じベッドで寝る事を許してくれた。 今日もぐっすり眠れた。 朝は少し戸惑ったような顔をしてたけど、今日は仕事がお休みだからとキアヌさんがお店に行くまでの時間、付き合ってくれる事になった。実家に古着を取りに行ったり、下着の替えもいくつか買う事になった。お金も貸してくれるって。後でマスターに昨日と一昨日の分だけ日払いでもらって返そう。 家の人に挨拶をして古着をもらい、買い物に行くとキアヌさんの友達に会った。 イタチの獣人のタチバナさん。日本人みたいな名前だけど偶然だよね?ヤマネさんも日本人名にしか聞こえないけど。 3人で一緒にあちこち見て回るのはとても楽しい。いつも幸せでいられる祝福ももらってたっけ? 時間になったのでお店まで送ってもらって別れた。 今日も来てくれたご隠居さんに色々な気遣いやキアヌさんへのお礼を言った。うんうん、と頷いてまた頭を撫でてくれた。 隠居さんが帰った後でキアヌさんとタチバナさんが来て、今夜はタチバナさんが泊めてくれると言う。よろしくお願いします! いつものように料理を分けてもらっていたらタチバナさんもくれた。ピザだ!熱々の蕩けるチーズが美味し〜い! お返しにタチバナさんにもあーんしたらイタズラに指を舐められたので、もう一切れ食べさせてもらった時にやり返した。イタズラなのでちょっとエッチっぽく舐めてたら 「こらっ!!」 ってマスターに襟首掴まれて止められた。 「ごめんなさーい!」 テヘペロ。 今日は甘〜いお酒も飲ませてもらって幸せ2倍。 もらった古着の余分はお店に置かせてもらって着替え1式を持ってタチバナさんのお家へ。タチバナさんも優しくて甘えても受け入れてくれる。 お湯で身体を拭くときなんか全部やってくれた。すごくさっぱりした!! 下着姿でじゃれながらベッドに入るのは恋人みたいでほんわかする。背中をつーっとしたり腰の上を噛んだりしてたら 「も、もう寝ないと!」 って止められた。調子に乗り過ぎちゃったかな?ごめんなさい。 ぐっすり眠って目が覚めて、挨拶をしたらギュッと抱きしめられた。恋人ってこんな感じなのかな? 「ふにゃ〜…しあわせ…」 お仕事に向かうタチバナさんと別れる時、もう一度抱きしめられて、頭をナデナデされた。 「タチバナさんの恋人は幸せですね。」 ぼくがそう言うとタチバナさんがそうかな?って照れ笑いしてキュンとした。 お店で隠居さんにカナッペを食べさせてもらってたら、ヤマネさんと、この町の観光案内をしてくれたメルさんが何か揉めながら入って来た。 「いらっしゃいませ〜!」 2人に声をかけて席を立とうとしたらご隠居さんが 「まだお返ししてもらってないぞ?」 って言うからカナッペをあーんって食べさせた。あれ?ヤマネさん達が驚いてる。 「この店は経営方針を変えたのか?」 「俺がやらせてる訳じゃない、ミッツが楽しく仕事してるだけだぞ。始めは止めてたんだが、雰囲気は悪くなってないし売り上げがかなり増えたから気にしない事にした。」 ぼく、役に立ってるんだ! お客さんに甘えてるだけだけど。 「ヤマネさん、メルさん、ご注文は?」 「ピザをミッツに食べさせると指を舐めてもらえるサービスが付くぞ。」 「それサービスだったんですか!? ただのイタズラじゃないですか!!」 お客さんが面白がるからやってたのに。2人はスペシャルピザとデラックスピザを注文してくれた。 「お2人はお友達だったんですね。」 即座に否定が返って来た。マスターがそいつら落とした相手の数を競ってるようなロクデナシだ、と失礼な説明をした。 「お2人共、すごく優しい良い人でしたよ。その上こんなにかっこいいんだからモテるのは当たり前でしょう?」 そう言ったら2人は頬を染めて俯いて気まずそうにしている。ぼく、変な事言ったかな? 「でもマスターの話を聞いてピザ注文したって事は、イタズラは好きなんですね。」 かっこよくて優しくてイタズラ好きなんて最高だと思う。いちゃいちゃしまくれるじゃん! そんなおしゃべりをしてたらピザができたので運ぶ。先にできたのはメルさんのスペシャルピザ。 「熱いから気をつけて下さいね。」 そう言って口元に一切れ差し出すと、三口で食べて飲み込んでからぼくの指を舐める。れろれろと舐められてちょっと気持良くなっちゃって恥ずかしい。仕返しに動き回るメルさんの舌をぬるぬると撫で回したら、メルさんが甘いため息をついた。色っぽい〜〜〜! 今度は一切れ食べさせてもらって、差し出された指を舐める。やられたように舐め回すとメルさんがどんどん色っぽくなった。 「メルさんそんなに色っぽい顔しちゃダメですよ?」 クスクス笑いながらからかうような事を言ってたらヤマネさんのデラックスピザができた。メルさんにじっくり指を舐められたので手を洗ってからピザを運ぶ。 「メルの後…」 やっぱり気になるみたい。飲食店なんだから洗いましたよ!って言ったらホッとしてる。 はい、あーん。 2口で食べてべろっと舌なめずりみたいにして、目がぎらついてる。それだけでちょっとぞくっとしちゃった。手首を掴まれて指をしゃぶられてワイルドに笑われるとエッチな気分になっちゃいそう。 「やだぁ…恥ずかしい…」 「その手を放せよ、おっさん。やり過ぎなんだよ。」 声の方を見ると優しい癒し系のタヌキの獣人・キアヌさん、だと思うんだけどすごい顔で睨んでて声もドスが利いている。タヌキだけに化けたのかな? タチバナさんも一緒だ。 「ピザを頼むとミッツの指を舐められるサービスがついて来るとマスターに言われたんだが?」 「いつからそんなシステムに!?」 「今日から。」 「それ思いつきって事ですよね!?」 会話のキャッチボールだ!じゃなくて。 「ミッツが嫌がる事をしなければいいんじゃないか?」 あ、ご隠居さん! 「これほど可愛くて優しくて甘えん坊なんだからモテまくりで当然だろう。」 「あ、あ、あ、甘えん坊って…!!」 その表現は恥ずかしい!事実だから余計に恥ずかしい!! 「嫌じゃないのか?」 キアヌさんが少し怖い。 「あんまり本気で舐められるとエッチな気分になっちゃうから困りますけど、イタズラしあうのは楽しいですよ?」 キアヌさんは急に悲しそうな顔になって仕事の邪魔してごめん、って。心配してくれたんだよね? 「心配してくれて嬉しいです。また泊りに行って良いですか?」 「「「泊るならうちに!」」」 他の3人が口を揃えて言った。 「ミッツはうちに来たいと言ってるんだ。」 「社交辞令だろう?」 「情けない顔してたからでしょ。」 「うちにはまだ泊ってないから来てよ!」 「あの…ヤマネさんあの朝、機嫌悪かったけど、また泊っても良いんですか?」 「あれは!…その…」 ぼくが何か悪い事しちゃったのかと思ってたんだけど、違うのかな? 「違う!…経験なさそうだったから言いくるめて手を出してやろうと思ってたのに、俺が…この俺が!!あんなにすぐイかされるなんて!!って、ショックで自信無くして落ち込んでたんだ!!」 「お前もか!!」 ヤマネさんの告白にキアヌさんが乗っかる。寝ぼけた僕に朝勃ちを扱かれてあっという間にイかされた、って。経験が少ない自覚があったからそこまで落ち込まなかったらしい。 「お前ら直接触られたならまだ良いよ!オレ、押し倒されて首筋と乳首舐められただけでイったんだぞ!どれだけショックだったか…」 「僕も背中や腰を撫で回されて甘噛みされただけでイっちゃったのを、どうにかごまかしたんです!」 え?そうだったの? 「お前、容赦ないな…」 マスター!ぼくが悪いんですか!?悪気なんかひとかけらも無かったのに! 「ご、ごめんなさい…」 仲良くしてただけのつもりだったけど、セクハラだったのかな?悪い事しちゃったな…。 「謝って欲しい訳じゃない!恋人になりたいんだ!」 「独り占めしたい。」 「いちゃいちゃしたい。」 「2人で気持良くなりたい!」 どうしよう。まだ恋人を選ぶには早いと言うか決め手に欠けると言うか、とにかく情報が足りない。 「えっと、もっと良く知らないときちんと選べないので待ってもらえますか?」 「分かった。」 「待ってる。」 「選んでもらえるよう頑張るよ。」 「待ちますね。」 4人の了承を得て、ローテーションで泊めてもらう事になった。今夜はまだ行った事が無いメルさんのおうち。誰を選ぶ事になるか分からないけど、いっぱい可愛がってくれる人が良いな。 「みなさんよろしくお願いします!」 ぺこりと頭を下げたぼくの頭をご隠居さんが撫でながら、よく考えるんだよ、と言ってくれた。

ともだちにシェアしよう!