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第4話
今日はマスターのお店の日。
4人からは合鍵をもらっているので家で時間までゆっくりできるようになった。
いつも通りお昼頃に行くとマスターが表を掃いていた。
「マスター、こんにちは!」
「おう」
短い返事と共に顔を上げる。今日もダンディです。掃除を代わろうとしたら外はいいから中を頼むと言われた。
準備が終わって開店するといつものようにご隠居さんが一番乗り。でもなんだか困ったような顔。
「ミッツちゃん、『さわれる夢』で働いてるんだって!?」
あ、心配かけちゃってる?
「はい。みなさんの耳やしっぽが触り放題なんです!!もう幸せで〜♫」
「…嫌なことはないか?」
「好きにして良い、って言われてるし甘えられるし、すごく楽しいです!」
お料理だけはマスターの方が美味しいから少し残念ですけど。
「そうか。嫌でないなら良いんだ。…ところで…その、衣装が見たいのじゃが。」
「このお店では無理ですよ!?
本当に違うお店になっちゃいますからね?」
むう…、と黙り込むご隠居さん。それならば、とマスターが提案した。
「衣装が見たいだけなら、持って来て見せれば良いんじゃないか?」
目からウロコ!
着てみせろと言われている訳じゃないもんね。それならば、と言う事で荷物の中から取り出した。
「ほら、こんな感じです。」
体の前に当てて見せると、マスターの呆れ顔とご隠居の心配顔。
「そんな、中に手を入れ放題な服で、本当に大丈夫なのか!?」
「嫌なことはイヤ、って言います。嫌なことがないように黒服さんが側にいてくれますし、本当に大丈夫ですよ。嫌になったらすぐ辞めちゃいます!」
タッツィーネさんには悪いけど真剣に仕事として取り組むのは無理そうだった。本気の趣味としてお店に出ます!
それはともかく、いつものお仕事!注文を取って料理や飲み物を運ぶ。空いた食器を片付ける。料理を食べさせっこする。あぁ〜〜〜〜〜!マスターの料理ぃ〜〜〜〜〜!!
今日はキアヌさんの家に泊る日なのでキアヌさんが来てくれた。サラダとグラタンとチキンソテーを注文して夕飯として食べて行く。グラタンをふーふーして差し出すとタヌキのたれ目が更にたれたように見えた。ふわぁぁ〜…うっとり…
「あの、さ。気になってたんだけどあれってもしかして…?」
キアヌさんがおずおずと指差した先には壁に飾るように掛けられた『さわれる夢』の衣装。マスター!さっき片付けとくって言ってたのにずっと飾ってあったんですか!?
「あっちのお店の衣装です。ご隠居さんが心配して色々知りたがった時にお見せしたんですけど…」
なんで飾ってるんでしょうね? 今まで気づかなかったぼくもおかしいけど。
「見たい。今日、帰ったら着てくれる?」
「でもお店以外では恥ずかしいから…」
「俺、まだ新米だからあの店に行くには経済力が追いつかなくて…」
しょんぼりされてしまった。
そっか、風俗店だからやっぱり高いのか。考えてみたら下着一丁で一緒に寝てるんだし、下着の付け方が分からなくて全裸も見られてたんだった。
「じゃぁ、帰ったら…」
他のお客さんがだいたい帰ったから上がらせてもらう。
夜遅いから、って手をつないで帰る。普通のつなぎ方。恋人つなぎじゃないのが逆にきゅんとするのはなぜ?
家で汗を拭いてから衣装を身につける。
ベッドでで待つキアヌさんの所へゆっくりと近づくと完全に固まっているみたい。ミニ浴衣から見える生脚に釘付けの視線。裾は膝上3cm程度なんだけどな。
ベッドの上で隣に座る。
「これでね、お酒作ったり注文を黒服さんに伝えたりするの。で、耳とかしっぽとか筋肉とか触らせてもらってるんだ。」
タヌキの耳は丸みを帯びた三角形。縁をなぞってやわやわと揉むとしっぽがぶわっと膨らむ。もしかして嫌がってる?そう思って耳を触りながら様子を見るけど身を硬くしているだけで拒否する様子はない。そっとしっぽを撫でる。だんだん膨らんでいたしっぽが元の太さになり、緊張が解けたのが分かる。リラックスしたしっぽの付け根をなぞって無毛の肌との境目をくりくりすると「あっ…」って小さく声を漏らす。
もう、もう、可愛いよぅ!!
キアヌさんの可愛い反応にぼくはますます興奮してしつこくそこをくりくり。
「っは、あ…ふぅん…っ!」
もう堪らなくなってベッドに横向きに押し倒してしっぽの付け根をくりくりしながら、耳を揉みながら、もう片方の耳をれろれろ舐めて甘噛みした。
「んあぁぁぁぁ!!」
キアヌさんが背をしならせ、解放された熱。
「お客さんとはこんな感じ。」
息を乱してじっとぼくを見るキアヌさんは何か言いたげだけど言葉が見つからないと言った感じ。
「ご隠居さんにも言ったけど、向こうのお店は嫌になったらすぐ辞めちゃうから心配しないでね。マスターに胃袋掴まれてるから絶対他の店なんかにいかないよ?」
横になったままこくりと頷くキアヌさんの頭を抱き寄せてよしよしと撫でるとしがみ付いて来た。堪らない!
衣装を脱いで下着もいつものに変えてる間にキアヌさんも身体をきれいに拭いて下着を変えて戻って来た。最近は一緒に下着だけで寝ている。肌の触れ合いが心地良い。
翌日はタチバナさんの家。
ここでも衣装でいちゃいちゃした。タチバナさんにはちょっと脚を撫でられて服の中まで手を入れられたけど、そこは触らせてないません!と断った。
衣装でそれを許しちゃうとお店で断り辛くなっちゃう気がして…普段通り、下着だけになった時はもっと触っても良いよ?
次の日はヤマネさん、その次の日はメルさん。このローテーションで泊まっていたんだけど、メルさんの元気がない。どうしたんだろう?
聞いてもなにも言わずそっと抱きしめてるだけ。切なくなっちゃうよ。
「何があったんですか?お仕事の話?」
ふるふると首を横に振る。教えてくれないんですか?
しばらく迷って漸く伝えてくれた悩みは、自分にはケモ耳も筋肉もないからぼくを喜ばせられない、と言う事だった。そんなにぼくの事が好きなの!?
イケメンで引き締まっていてそれなりに筋肉はあるし、なにより優しくて気配り上手。モテ競争するほどだったのにすっかり自信がなくなってしまったらしい。
「こんなに誰かを好きになったのも、こんなに自分に取り柄がないと感じたのも生まれて初めてで、気持を持て余してるんだ。」
伏せたケモ耳が見えるようだ。可愛すぎる!!
きゅんきゅんして思わずキスをしてしまった。びっくりしているメルさんに言う。
「ぼくの初めてのキスです。今までキスしたいと思った事がなくて何となくして来なかった、ってだけだからありがたみは無いかも知れないけど、メルさんにはしたくなっちゃいました。」
ふふっと笑ってそう言ったらメルさんの目にみるみる涙が堪って溢れた。
今度はメルさんからキスしてくれて、触れるだけのキスからだんだん深くなってディープキスになった。擦られる粘膜が気持良くてぞくぞくする。気持良くてお互いの熱を擦り付けて欲望を解放した。こっちの世界に来て初めてだ。
身体を清めて眠り、いつも通りの朝。少し違ったのは送り出すときのいってらっしゃいのキス。
1人になって考える。メルさん達4人とはたまたま縁があって居心地が良くて泊めてもらっているけど、まだセックスするかどうか想像はできない。でもキスはこの4人とだけは考えられる。キスができるかどうかが恋人とそうでない人との判断の分かれ目だと言うなら、この4人の中の誰かが恋人になる可能性があると言う事。
……うん、保留しよう。
今日は『さわれる夢』に行く。
やっぱり色々なもふもふと触れ合うのは至福。筋肉も大好き。また来てくれたクマさんを撫で回す。この前は耳と胸を触っただけだったけど、今日はしっぽも触らせてもらう!大きな身体のクマさんのしっぽを触ると他の所が触れなくなる。小さな短いしっぽ、と言ってもぼくの拳ほどもあるしっぽはニギニギすると充実感が半端ない!うっはぁ〜……
クマさんが唇に指を触れさせて来るのでしっぽをニギニギしながらいつものようにしゃぶってしまった。昨夜、メルさんとあんなことしちゃったせいか顔のだらしなさに拍車がかかっているような気がする。
「うぅっ…」ってクマさんが小さく呻いたから多分今日もイかせてしまった。
今日はぼくを膝に乗せて抱きしめて、「ありがとう」って言うから「こちらこそ」って返してゆっくり抱き合っていたら次の指名が入った。
席を離れる前に欲しい物を聞かれてダメ元でお風呂!と答えたら分かった、だって。え?どう言う事?
よく分からないけどまたね、ってハグをしてその場を後にした。
次の指名には驚いた。
ご隠居さんがキアヌさんとタチバナさんを連れて来ていたから。どうしても心配だったらしい。ハニーさんも来てお酒とツマミを注文してお喋りして楽しんだ。
ハニーさん、ぼくの事をゴッドハンドとか言うの止めて下さい。
でも先輩として色々説明してくれたのは感謝です。
ここはもふもふ天国だから幸せ過ぎて自分の中のいろんなものが緩んでるけど、たったひとつの言葉が嬉しい。
ぼくからみんなに言いたい言葉、みんなからぼくに言って欲しい言葉。
みんながぼくに言ってくれる。
「 可 愛 が っ て 下 さ い 」
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後日、町にお風呂やさんができた。
貸し切り風呂もあるそこは温泉を引いているんだって!!
皆で行こうと4人と話をしていたらプレオープンの招待状が来た。
オーナーはクマさんだった。
鉱山主でお金持ちのクマさんは鉱山から出た温泉を町まで引いて施設を作った。
そう、ぼくのために!
…絆されそうなぼくはダメなやつかも知れない。
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