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第1話
「今日は寒いな・・・」
換気のために開けようとした事務所の窓も諦めて閉めてしまうのは仕方のないことだと思う。
今日は確か一軒取立てに行くだけだ。他に用事が無いことをもう一度確認し早く済ましてしまおうとコートを羽織った。
矢崎 紅 はヤクザであり、部下もそれなりにいる幹部である。
いつも淡々と仕事をこなし、表情を顔に出すことはない。紅がこの組に入り六年ほど経つが紅の笑顔を見たことがある者は一人もいない。
そんな紅でも身長は186cmあり足が長くスタイルがいい。筋肉も程よくついておりそこも魅力的だ。そして誰もが振り返るほどの整った顔立ち。紅はどこに行っても注目の的だった。
寒さから逃げたくて事務所の駐車場に停めてある車に乗り込む。エンジンをかけると温かい空気が流れ出した。
「とっとと終わらせるか」
ハンドルを握り車を出発させる。
音楽をかけるわけでもなく、ただ静かなエンジン音がするだけの車内。
いつもはうるさい部下がついて来るが今日は静かだ。落ち着くような落ち着かないような。
そんなことを考えながら車を走らせること十分。二階建てのぼろアパートに着いた。
目的の部屋は一階の一番奥の部屋だ。
車から降り目的の部屋のチャイムを鳴らす。
ぴーんぽーん・・・
反応は無い。もう一度押す。
ぴーんぽーん・・・
やっぱり反応は無く一旦車に乗り帰ってくるのを待つことにした。
一時間程待ったとき、男が部屋に入っていった。
先日取立てにきた時とは違う男だった。
とりあえず部屋に誰かいるのは確認できたので車から降り先ほどの部屋へ向かう。
インターフォンを鳴らそうとした瞬間、
がっしゃーーん!!
何かが割れる音がした。
その後男が何かに怒鳴り散らしている声が続く、紅はインターフォンを鳴らした。
すると、たったった・・・と軽い足音が近づいてきた。
部屋の奥の方では焦ったような「待てっっ!!」と言う男の声がしている。
”なんだ?”と思っているとドアの鍵が開き10歳程度の子供が勢いよく紅にタックルしてきた。
紅も日ごろから鍛えているし、何よりタックルしてきた子供に大人の男を突き飛ばすほどの力が無い為、子供が紅の胸にすっぽり収まる形になった。
その後を追いかけるように男が出てきた。
「そいつ返してくんない?」
男は無理やりな笑顔を作り子供を指差した。
しかし子供はいつの間にか紅の後ろに移動しており紅の足にしがみつき震えていた。
「はぁ・・・こいつを返すのは一向に構わないが、お前ここに住んでいる女を知らないか?」
「あぁ、由佳の事か?あいつの居場所なんて知らないよ。久しぶりに連絡が来たと思ったら金貸してくれって。まあ金に困ってる訳じゃないから貸したら、そいつの写真見せられて好きにしていいからって。」
”逃げられたか・・・”
このまま帰ったら多分組長に怒られる。
あの人は滅多に怒鳴ることはないが、あの黒い笑顔でくどくどと小言を言われるのは精神的にくる。
「なぁ、こいついくらで買ったんだ?」
「はぁ?・・・10万だけど」
「分かった、この子供15万で引き取るから諦めてくれないか?」
未だに紅の足にしがみつき震えている子供を指差した。
「まぁ、いいよ。俺来てみたはいいけどそいつ写真と違って汚いし、臭いし、服めくったら痣やらタバコの跡がいっぱいで萎えたんだよね。」
「そうか、じゃあこいつはもらって行くから。それと・・・女に会う機会があったら伝えといてくれ、”逃げ切れると思うなよ”とな」
紅は財布を取り出し15万を当たり前のように渡しながら子供を連れて歩き出した。
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