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第2話
「おい、離せ」
紅は歩き出してからもしがみついたままの子供に言った。
歩きづらいことこの上ない。
現に車まで2分もかからない距離が2分経った今、半分ほどしか進めてない。
「んーん、んーん」
このやり取りを俺達は何回繰り返したことだろう。
紅が何を言っても「んーん」と言い首を振るだけ。
仕方が無いのでとりあえず引きずりながら歩いているが、紅だって気が長い方ではない。
そろそろ限界が来そうだ。
「置いてかれる・・・」
「はぁ?」
「離したら・・・置いてかれる・・・」
そう言いながらも、子供が紅の足から離れた。
錘が取れた開放感を味わっていると子供は泣きそうに顔を歪めた。
「泣くな、うぜぇ」
そう言うと、子供は下を向き首を振った。
”泣かない”ということだろう。
「お前は置いていかない。何も持って帰らなかったら怒られるのは俺だからな。」
「置いてかれない・・・置いてかれない・・・」
子供は何かの呪文のように繰り返していた。
紅は無意識に子供の頭を撫でた。
ハッとし一瞬で手を引っ込めたが、子供は紅が撫でたところに自分の手を置き不思議そうにしていた。
「ほら、早く乗れ。」
後ろのドアを開け子供が乗り込んだのを確認してからドアを閉める。
自分は運転席へ回り乗り込んだ。
エンジンをかけ車を発進させる。
”今日は早く帰れると思ったのに・・・”薄暗くなってきた空を見ながら思った。
これから組長の元へ行き、七瀬 由佳 がいなくなった事を伝えなければいけない。正直気は重いが、その為のこの子供だ。
組長は仕事の時や部下が何かやらかした時にはとてつもなく怖いが、可愛いものに目が無い。
幸いこの子供は今は、髪はボサボサで異臭を放っているし、洋服だって穴が開いたり汚れが目立ったりでいい印象は持てないが整えたら絶対に美少年だ。
こいつを綺麗にして組長に見せればお咎めはなしだろう。
なしになってくれ・・・
そんなことを考えていた紅の後ろの席で子供が紅を一瞬も目を離さず見ていたことを紅が知ることは無い。
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