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第3話

「お疲れ様です!!紅さん!!」 うるさい大音量で部下達があいさつをしてくる。 まあ元々元気な奴が多いから仕方がない。 「組長はいるか?」 「はい!奥の部屋にいると思いますけど・・・」 「分かった。」 最低限の会話だけをしてとりあえず組長がいるらしい一番奥の部屋へ行く。 何部屋もある長い廊下を抜け、奥の部屋の前で止まる。 少し薄暗く感じるのは、光が入りづらいからか、気持ちの問題か。 「あ、か・・・さん・・・?」 足から離れたはいいが、隙間も空けないようにくっついている子供に名前を呼ばれた。 「なんだ・・・?」 「ぼく、また・・・売られるの・・・?」 「はあ?」 「上手、できたら・・・あかさん、のところ・・・戻っても、いい?」 カタコトで、ゆっくり喋るこいつに少しイライラしながも何を言っているのかは分かった。 この子供は多分何回も母親に売られてきたのだろう。 そして次は俺がこの子供を売り飛ばそうとしている、と思っている。 しかし、ひとつ意味が分からないのが、俺のところに帰ろうとしているところだ。 俺だってこの子供を金で買った奴の一人だ。 なぜこんなに懐かれているのか・・・ 「あかさん・・・安心?する、あったかい・・・上手がんばるから、あかさんと・・・いたい・・・だめ?・・・なんでもする・・・」 安心する?温かい?初めて言われた言葉に内心焦ってしまった。 しかもこの子供は俺といるためならなんでもすると言い出した。 こいつは馬鹿だと思う。 取り立ても、暴力も、時には人殺しも・・・淡々とこなし、心なんて無いような俺にこいつは正反対のことを言う。 その言葉に焦って、ほんの少し嬉しくなってしまった自分が嫌だと思った。 「お前を売ったりしねーよ。」 「そうなの・・・?」 「そうだよ」 俺はぶっきらぼうに答える。 コンコン・・・ 「帰りました、紅です。」 「おお、帰ったか。しかも、小さいの連れてるな。」 少し嬉しそうな声が奥から聞こえた。 組長は小さい子供が好きだからな。 俺も小さい頃からここにいるが、厳しい時は厳しい、優しい時は優しい・・・とメリハリをはっきりつけて育ててもらった。 「入ります」 ひとこと言い戸を開けると組長は後ろの子供を見た瞬間嬉しそうな顔をした。 普通にしていれば優しいおじいちゃんだが、仕事になるととてつもなく怖くなるのをここにいる奴らは嫌と言う程知っている。 「こっちに来なさい」 手を振りながら子供を俺そっちのけで呼ぶ。 この調子なら、お咎めなしかもしれない「で、女はどうした?」・・・なんて思った俺が馬鹿だった。 「すいません・・・この子供だけ残して消えました・・・しかも、子供を売って金をもらっていた様です。」 「それで?」 「今、探しています。この子供は・・・」 「売られた所を買ったのか」 組長にはお見通しのようだ。 こういう時にも敵わないなと思う。 「お前は冷徹に見えて優しい所がある。どうせ何だかんだ自分に理由をつけて連れてきたんだろう?」 「はい」 「まあいい。早く探し出して金返してもらえ」 「はい」 そして俺の後ろの子供に目を向ける。 子供は頑なに俺の脚を離さない。 「ほら、行け」 背中を押してやる。 「戻って・・・「いいから、戻ってきていいから行ってこい。」 そう言うと、たったった・・・と走って行く。 「可愛いなあ」 やっと腕の中に来てくれた子供に組長はご満悦だった。

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