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第4話
キョロキョロこちらを見ながらも、組長の膝の上で大人しくしている子供。
「そういえば、この子の名前はなんだ?」
「・・・え?」
「知らないのか?」
組長に言われて気づいた。こいつの名前を聞いていなかったことに。
「君は何て名前なんだい?おじちゃんに教えてくれないかい?」
「・・・」
この子供はさっきからひとことも喋らない。
組長は紹介したらすぐさま風呂に入れようと思っていた子供を気に入ったようで汚れているのも気にせず頭を撫でたり、頬を突いたりと楽しそうにしているが、子供は無反応だ。
「紅ならいいのかな?」
そんな訳ないだろ・・・と思うが組長が俺の名前を出した途端子供がこちらを向いた。
子供の名前がそんなに知りたいのか組長は子供と一緒にこちらを見ている。
「はぁ・・・おい、名前は?」
「・・・」
「俺でも駄目じゃないですか・・・」
なんだか期待された分とても恥ずかしい気がする。
「・・・結」
「ゆい・・・?」
俺が確認するとコクンと頷く結と名乗った子供。
「結か!お前に似合ってる。」
組長のその言葉に少しホッとしたように子供が力を抜いた気がした。
しかし、俺にも感想を求めているのかこちらを見たままの子供。
「い、いい名前なんじゃねーの?」
人を褒めることのない俺は恥ずかしくなってしまった。
「紅が話しかけるといい反応するなあ。」
少し悔しそうな口調で、しかし反応を示す結を見れたのが嬉しいのか、組長はにこやかだった。
「・・・あ、か・・・」
「・・・?なんだ?」
俺を見つめたままの結は俺を呼んだ。
俺は首を傾げながら近づき、しゃがんで視線を合わせながら聞いた。
「あかは・・・ぼく、きらい・・・?」
「はぁ?なんでだよ」
急な意味の分からない質問に余計首を傾げた。
別に俺は誰かに好きだの嫌いだの思った事は無い。
でも、こいつ・・・結に対しては少しだが嬉しいと思ってしまったことがあった。
誰かに対して心が動いたのは久しぶりな気がする。
「あかは・・・ぼくに触らない・・・あかは、ぼくと話さない・・・あかは・・・ぼく、きらい・・・?」
カタコトで拙い言葉で一生懸命話した結になんでか“嫌い”とは言えない気がした。
それに結に対しては何をされても嫌いになることはないと思えた。
「俺は・・・お前を嫌いだとは思わない。」
「ほんと・・・?」
「ああ、本当だ」
「お前がそう断言するなんて珍しいな。それもこんなに小さな子を相手に」
組長が言った通り俺が人に対して何かを断言することはないし、そもそもこんな真剣になったことがない。
自分が結によって変わっていっているのが少し怖かった。
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