60 / 373
2恋愛恐怖症の治し方
そんな思いを振り払うように、俺は真空君の首に手をやり、軽く笑った。
真空君は驚いたように体を震わせたが、俺がこう囁くと更に顔を赤くした。
「あーあー、あいつ、首筋にキスマークなんてつけちゃって。独占欲強いなぁ」
「えっ、そんなの今初めて……」
驚いたように尻すぼみに呟く彼。
平太のあまりの不器用さに、思わず笑った。キスマークを付けてしまうほど好きなら、さっさと告白してしまえばいいのに。
「話聞けば聞くほど不器用だねぇ、あいつ」
思わずそう吐いた。
そこでふと思い出して、こう言っておいた。
「あ、そうそう、君のことは少し気に入ったんだけど、君と平太の邪魔はしないし手も出さないから安心して。茶々は入れたいけどね、楽しいし」
実際、俺を今すぐにでも殺しそうな勢いで睨む平太は、どこか新鮮で少し、いやかなり面白い。
「……平太、お兄さんのこと散々な言い方してますけど、良い人なんですね」
少しして、心からといった調子で真空君が言った。
変な話だが、その言葉は深く俺の心を抉った。クズだと罵られる方がまだ、気が楽だと思うくらいに。
自分がどうしようもない人間なのは、自分が一番よく分かっている。分かっていて、いつも誤魔化している。
だからこそ、心から褒められると現実を叩きつけられるようで辛いのだ。
「そんなことないよ。俺はクズだよ、平太が言う通り」
茶化すように言って、気を軽くしようと努めた。真空君は腑に落ちないような様子だった。
「……おっと、これ以上真空君と話してると、そろそろ平太に殺されるや」
俺はそう無理やり話題を切り上げ、立ち上がった。
そしてわざと、何かを含んだような笑顔で平太を見た。
すると平太は案の定、俺の肩を掴んで耳元で低く聞いた。
「兄貴、今真空さんに何言ったんだよ」
俺はにやっと笑うと、「さあね?」と肩を竦めた。答えてやる気はさらさらない。
「じゃ、俺は邪魔だろうからどっかに消えておくよ」
俺はそのまま、何も答えずにドアを開け、外へ出て行った。
いつも何事にも無関心な平太がここまで彼に執着するのは、面白くて仕方がない。
と同時に、羨ましいとも思った。
ともだちにシェアしよう!