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4恋愛恐怖症の治し方
「ん、入れ」
しばらくアパートの千紘の部屋の玄関前で待っていると、無造作にドアが開き、ぶっきらぼうに千紘が促した。
千紘の部屋は相変わらず、男一人暮らしとは思えないほど片付いていた。
「で? どうしたのお前」
俺がソファに腰掛けたところで、千紘はそう尋ねた。
「いやね、弟にようやく恋人ができてさぁ。帰ったらちょうどヤッてて、家に入りにくかったからそのまま出てきちゃった」
特に隠すことでもないのでそう告げると、「へぇ、あいつに恋人か」と千紘は眉を上げた。千紘は高校生の頃から頻繁に俺の家に出入りしていたので、平太とは顔馴染みなのだ。
「平太君には一生恋人ができないんじゃないかって勝手に心配してたけど、できたんだな」
意外そうに呟く千紘。
「そうだねぇ、俺もすごい意外だった。……で、千紘は? いない訳?」
訊くと、千紘は複雑な色を浮かべて黙り込んでしまった。この手の話題を振ると、千紘はいつもこうだった。
「やっぱいいや、話さなくて。千紘がこの手の話題について話さないのはいつものことだし。それより、何か飯食わせて」
時間は七時を回りそうだった。そろそろお腹も空いてきた。
千紘はほっとした表情を見せ、そして眉をひそめた。
「お前さぁ、いきなり泊まらせてって頼み込んできたのに図々しくね?」
「いいじゃん? 千紘料理得意なんだからさーぁ?」
千紘はそれを聞いて、満更でもなさそうだった。
「しゃあねえ。晩飯作っとくから風呂入ってこい」
千紘はそう吐き捨てながら、俺を手で払う仕草をした。
俺が風呂へ行こうと立ち上がると、背に声がかかった。
「風呂沸かしてあるからシャワー使い過ぎんなよ。それから、入れば分かるけどグレーのスウェットとその上に置いた下着、それと緑色のタオルがお前のな。ほとんど使ってないやつだから安心しろ」
それを聞いて俺は思わず笑った。
図々しい、なんて言っておきながら、千紘はきちんと用意をしてくれている、それが何だか面白かったのだ。
だから俺に甘えられるのに気付かないのか、気付いてて知らん振りをしているのか。どちらにしろ、千紘がいて良かったと思う。
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