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5恋愛恐怖症の治し方
「ほら、飯。食え」
そう置かれた皿には、白い湯気を上げる肉じゃがが入っていた。
ご飯茶碗、味噌汁、そして肉じゃがを眺め、何かが足りない気がして首を傾げた。が、はっと思いついて催促した。
「酒は?」
千紘は途端に呆れ果てた顔になり、盛大にため息を吐いた。そんな顔ながらも、立ち上がって冷蔵庫を開け、缶を二つ取り出して勢いよく机に置いた。
「ほら酒」
置かれたそれは、よくCMで流れている発泡酒で、俺は思わず顔をしかめた。
「えぇ、これ発泡酒じゃん。ビールない訳?」
「お前はどこまで図々しいんだよ! 俺はお前の母親じゃねえんだよ!」
「いった! 分かったよ、酔えれば何でもいいから黙る」
頭を叩かれ、仕方なく黙った。
ぷしゅ、と小気味いい音を立ててプルトップを開け、一口呷った俺を見て、千紘は少し不思議そうに問いかけた。
「あのさぁ、誠人、何で俺のとこに来た訳?」
「え、何? 迷惑だった?」
そう口では問いつつも、少しも遠慮せずに肉じゃがを摘んだ。
「いやそうじゃねえけど。お前ならもっと連絡する相手いたろ? 俺より金持ってそうな相手とかさ」
「ま、そうなんだけどねぇ」
きちんと肉じゃがを飲み込んでから、呟いた。
「何かそういう気分じゃなかったっていうか? ほら、誰でもいいから泊めてもらおうとしたら、一番楽なのはビッチじゃん? でも今日はそういうのいいかなぁって」
「そういうのって、セックス?」
「それもあるんだけどさぁ、ちょっと違う」
きっと、さっき感じた虚しさを説明しようとしたら、千紘は腑に落ちない顔をして「じゃあ止めりゃあいいだろ」と言ってのけるだろう。
だから、あえて説明はしない。
千紘は案の定、納得のいかなそうな顔をして「ふーん」と呟いた。
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