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6恋愛恐怖症の治し方
「……お前、大丈夫? かなり酔ってね?」
「だぁいじょぶだーって、酔ってないし?」
心配気な千紘の表情が見える。そんな顔をしなくても、きっと俺は酔っていないのに。
「お前もうそれ十缶目だろ? 俺は二缶で充分なんだけど」
「まだ十缶目じゃーん? 俺十五缶くらいは一気に呑んだことあるぜー?」
呆れた様子の千紘の肩に手をかけ、ソファの上で足を組みながら残りを一気に呑み干した。
すごく気分が良い。虚無感なんてものはどこかに吹っ飛んでいってしまった。
それは、誰かと酒を呑んでいるからかもしれない。それか、千紘がいるからかもしれない。
でも、どちらでもいいか。楽しいのだからそれで。
「お前酒強いよなぁ」
しみじみと呟く千紘。
「お前が弱いだけだろー? ま、俺が中二ん時から呑んでるから強いのかもしんないけどなぁ」
「へぇ、中二……」
頷きかけ、千紘は気付いたように目を剥いた。
「中二!? おまっ、それ……えぇ!?」
驚く千紘が無性に面白くて、思わずけらけらと笑った。
「中学ん時は結構グレてたからなぁ俺。典型的な不良っていうか? 手ぇ出してないのはクスリだけだな、あっはは! あぁでも確か、クスリも一回手ぇ出しかけたんだっけ。あっぶねぇ」
「えぇ……高校生の時のお前は別に不良に見えなかったけどな……」
「マジで? うーん、行く高校なかったから中三になって煙草はやめたからかなぁ。あと、傷害事件とかも起こさないようにはしてた」
神妙な顔で千紘が黙り込むので、少し不安に思って顔を覗き込んだ。
やがて千紘は静かに問いかけた。
「お前大丈夫? そういう奴って大抵、家庭環境とかに問題があるだろ?」
「何? それ俺の頭心配してんの? それとも俺自身のこと心配してんの?」
半笑いで尋ねるが、千紘は真剣な顔で答えた。
「お前自身に決まってんだろ。誠人さ、家庭事情全く話したことねえだろ? それと、高校の時から仲良いのに一回もお前の親見たことないし。アルコール入ってる時くらいしか聞けねえから今聞くけど」
その真剣な眼差しに、心が抉られた。いい歳した男な癖に、泣きそうになる。
アルコールが入ってるせいか、それとも相手が千紘のせいか、どちらかは分からないが、自分でも驚くほどに口が軽くなっていた。
「家庭環境は最悪だったなぁ。俺が小三の時まではまだ良かったんだけどな。母さんはまだいたし、親父もまだ優しかった」
誰にも話すつもりはなかったのに、墓場まで持っていくつもりだったのに、気付けばそう切り出していた。
その切り出しで察したのか、千紘は言葉を失った様子だった。
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