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二人の夜 1

佳暁様がいない日は、ただでさえ広い家が余計に広く感じる。 広いというよりは、がらんとしているという感じだろうか。 主人がいない家というのは、やはりどことなく寂しい。 佳暁様は今日は泊まりがけで地方の投資先を見に行っている。 佳暁様が社長になっている投資会社は、会社と言っても社員は佳暁様と聡と護の三人だけで、実質ほぼ佳暁様の個人資産を運用するためだけの会社なので、面白そうな投資先を見に行くのは仕事というより趣味のようなものなのだと佳暁様は言っていた。 佳暁様はモデルかと思うくらいに綺麗な方だから、一人で出掛けるとスカウトに声をかけられたりナンパされたりと色々なトラブルに会いやすいので、出掛けるときはたいてい護がボディガード代わりについていく。 護はガタイがいいから一緒にいるだけで虫除けになるし、いろんな格闘技の経験があるので実際のボディガードとしても優秀らしい。 そんなわけで、今日のように佳暁様が出張する時は、たいてい聡と二人で留守番することになる。 とはいえ、別にいつもの日課が変わることはないので、佳暁様と護を見送った後は、聡は仕事場になっている書斎で会社の仕事をし、オレは家事をして午後にもらっている休憩時間には料理の本を読んで過ごした。 夕食の時間になると、聡がキッチンにやってきた。 最初にこの家を建てた人はホームパーティーが好きだったらしくて、キッチン、ダイニング、リビングがひと続きになっていて無駄に広い。 けれども今のこの家には客が来ることはないので、使っているのは一部の決まったスペースだけだ。 「これ、もう運んでもいいのか」 「うん、お願い」 聡がカウンターに置いてあった料理をダイニングテーブルに運んでくれたので、オレも最後の仕上げを終えたばかりの料理の皿を持ってついていく。 「いただきます」 「いただきます」 席について手を合わせた聡に続いてオレも手を合わせ、二人だけの夕食が始まった。 佳暁様がいない日は、使ったことのない食材を使ったり、初めての料理にチャレンジすることにしている。 聡を実験台にするのは悪いとは思うが、佳暁様が家にいる時は毎食オレの料理を食べてくれるので、佳暁様に初めて作る料理を食べさせるわけにはいかず、こういう日は色々試してみることができる貴重な機会なのだ。 それに聡もかまわないと言ってくれているので、たまに失敗作や微妙な出来の料理を食べさせてしまうこともあるけれど、遠慮なく実験台にさせてもらっている。 途中で味見した限り、今日の料理は悪くない方だと思ったがどうだろうか。 出来上がった料理を一口食べてみると、自分でいうのも何だが、なかなかの出来だった。 「どうかな?」 この家で家政夫として働き始めた時、聡に料理以外の家事のやり方を教わったこともあって、この家の中で聡が一番話しやすいので、彼になら料理の感想も聞きやすい。 「うん、いいんじゃないか。  俺には少し甘いが、佳暁様はこのくらいの方がお好きだろう」 「よかったー。  じゃあ、また今度佳暁様にもお出ししてみるよ」 出来れば三人全員においしいと思ってもらえる料理を作りたいところだが、それぞれに好みが違うのでそういうわけにはいかず、自然と佳暁様に喜んでもらうことが最優先になる。 聡は佳暁様と長い付き合いで好みもよく分かっているので、聡がそう言うのなら間違いないだろう。 その後も少し雑談をしつつ食事を終えた。 それぞれ自分の使った食器をシンクに運ぶと、聡は丁度抽出が終わったコーヒーメーカーからオレの分の一杯をカップに注ぎ、残りをサーバーごと持った。 「それじゃあ、おやすみ」 「うん、おやすみ」 挨拶をすると、聡は部屋を出て行った。 佳暁様がいる時は少しリビングでくつろいだ後、四人の長い夜が始まるのだが、聡と二人の夜はそれぞれ自分の部屋で別々に過ごすことがほとんどだ。 別に仲が悪いとかそういうわけではないが、オレたち四人はやっぱりあくまでも佳暁様を中心とした関係なので、佳暁様がいなければこんなものだ。 聡が残しておいてくれたコーヒーにミルクと砂糖を入れてから、オレは再びダイニングテーブルについた。 「佳暁様、どうしてるかな……」 コーヒーを飲んでぼんやりしていると、自然と今ここにいない人のことを考えてしまう。 まだ時間が早いから、佳暁様は投資先の人と一緒に食事でもしているだろうか。 佳暁様はお酒を飲まれないから、たぶんその後は早めにホテルに戻って、護と二人で……。 危うくその様子を想像してしまいそうになって、オレはぶんぶんと首を振ってその想像を頭から追い出した。 実際に二人からそうだと聞いたわけではないけれど、佳暁様は誰かに抱かれてからでないと眠れないので、こんな日は当然、護が一人で佳暁様のことを抱いているはずだ。 佳暁様は別に護だけをひいきしているわけではなく、オレたち三人のことを平等に愛してくれていることは分かっているけれど、やっぱりちょっと妬いてしまう。 「どうせオレ一人じゃ、どうにもできないんだけどさ……」 もし護の代わりにオレが佳暁様の出張について行ったとしても、オレでは佳暁様のボディーガードにはならないし、それに夜だってオレ一人では佳暁様のことを満足させられないだろう。 「どうしたらもっとセックスうまくなれるのかな……」 佳暁様と恋人同士になる以前にそれなりの経験を積んできた護や聡と違って、オレは佳暁様が初めてなので、圧倒的に経験が足りていない。 それに肝心のアレのサイズの方も、オレのものは聡にも護にも遠く及ばないこともあって、挿入行為では佳暁様を満足させられていないのが実状だ。 一応は努力と研究の甲斐あってフェラチオはかなりうまくなったと思うし、佳暁様は「うまくなくても一所懸命やってくれるのが嬉しい」と言ってくれるけれども、やっぱり男としては出来れば自分の持ち物で満足してもらえるようになりたい。 「聡や護みたいに出来たらいいんだけど」 いつでも二人のやり方をすぐ側で見ているので、なんとなくそれをまねしてみたりはするのだが、なかなか二人のようにはうまくいかない。 「……そうか!」 見てまねするだけではうまくいかないのなら、実際にどうしているのか、聞いてみればいいのだ。 もしかしたら見ただけではわからない、何かコツのようなものがあるのかもしれない。 幸い今日なら佳暁様に聞かれる心配もないから安心して聡に教えを請うことができる。 もしかしたら聡はそんなことを聞かれても困るかもしれないけれど、佳暁様にもっと満足してもらうためなのだから、何とか協力してもらおう。 「よし!」 そうと決まれば早く聞きに言った方がいい。 オレはコーヒーを飲み干すと、さっさと食器を片付けてしまおうと立ち上がった。

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