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二人の夜 4★

「……聡?」 ベッドに上がった聡はオレを仰向けにひっくり返しつつ、自分のズボンの前をくつろげた。 えっ、と思った時には、もう遅かった。 聡は下着の中から取りだした自分のものに慣れた手つきでコンドームをかぶせると、オレの体を押さえつけて、ゆっくりとオレの中に押し入ってきた。 「ちょっと、聡……! やだっ…、何で……!」 「……すまない」 押し殺したような声で謝った聡は、しかし行為をやめてはくれなかった。 何とか聡から逃れようとやみくもに暴れてはみたが、聡がオレを押さえつける力は強く、逃げることができない。 「違う……、聡、間違ってる」 困惑よりも恐怖よりも 、違和感が一番強かった。 オレは佳暁様を抱く方で抱かれる方じゃないし、聡が抱くのも佳暁様だけでオレなんかを佳暁様の代わりにしていいはずがない。 「間違ってない」 「え?」 「間違ってない。  俺は、お前のことが好きだから、だからこれで間違っていない」 「……え?」 聡の言ったことが、オレには信じられなかった。 何年もずっと佳暁様のことが好きで、今も佳暁様のことを深く愛している聡が、オレのことが好きだなんてことが本当にあるのだろうか。 けれども聡の表情は真剣そのもので、とても嘘を言っているようには見えない。 「…ああっ…!」 オレが呆然として固まっていると、聡がゆっくりとオレの中の入り口に入ったままだったものを押し込んできた。 さっき指で探り当てた前立腺を太いものがごりっと擦っていき、オレは思わず声を上げる。 さすがというべきだろうか、聡はオレの変化を見逃すことはなかった。 オレに教えてくれた通りに、前立腺の辺りを強弱をつけて細かく刺激したり、たまにそこを中心にして大きく擦ったり、オレが上りつめそうになると微妙にポイントをずらしてきて、もどかしい思いをさせたりする。 初めて知った快楽はあまりにも強烈すぎて、さっきまでの疑問も違和感もあっという間にどこかに行ってしまった。 いつの間にか、オレは聡の背中に手を回して、しっかりとしがみついていた。 真っ白になった頭の中に、ふいにある思考が言葉となって浮かぶ。 それはオレにとってはあまりにも恐ろしい考えで、自分で考えたことであるにもかかわらず、オレはおびえてしまう。 それでも昂ぶった体の方は、恐怖などものともしなかったらしい。 オレは聡に与えられた快楽に流されるままに達し、自分の腹の上に白い物をぶちまけてしまった。 オレが達したのとほとんど同時に、聡の方もオレの中で達したようだった。 達した途端、さっきまでの熱が嘘のように冷めていく。 それは男ならば誰でも同じはずなのに、聡の表情は最中と変わらない熱を帯びていた。 冷静さを取り戻したオレが慌てて聡の背中から手を離すと、聡もオレの中から自分のものを抜いてくれた。 「すまなかった。  けど、こんなことをしておいてこういうのも何だが、俺は本気だから」 オレを見つめる真剣なまなざしから、オレは卑怯にも目をそらした。 「さっきのこと、忘れて。  オレも忘れるから」 聡がオレにしたことはともかくとしても、真剣に告白してくれているのは確かなのに、こんなことは言うのは我ながらひどいと思う。 けれども聡には申し訳ないけれど、オレは自分の中の恐怖に耐えるので精一杯で、聡の告白についてまともに考える余裕など全くなかったのだ。 「部屋、帰る」 言いながら起き上がろうとしたが、その途端にさっき酷使したところに痛みが走って、オレは思わずうめき声を上げる。 「まだ無理だろう。  いいからこのまま、ここで寝ていけ。  お前が嫌なら、俺は出て行くから」 そう言うと聡は、ティッシュを取ってオレの体の後始末をしてくれた。 聡の甲斐甲斐しい世話を拒まなかったことが、そのまま聡がここにいることを許可したことになってしまったのだろうか。 聡は背中を向けて横になったオレの後ろにぴったりと体をくっつけて、そのまま一緒に布団をかぶってしまった。 反射的に小さく体を震わせたオレに構わず、聡は後ろからそっとオレを抱きしめてきた。 「お前が忘れろと言うなら忘れる。  明日になったら必ず忘れるから、だから今夜だけはこのままでいることを許してくれ」 本当ならオレは、聡のことを拒まなければいけないのだということはわかっていた。 けれども背中に感じる聡の体とその腕は温かくて、それはとても心地よくて、オレはそれを拒むことが出来なかった。 そうしているうちに、感じていた恐怖も少しずつ薄れていったのだろうか。 いつの間にかオレは、深い眠りへと落ちていった。

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