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実験 1
佳暁様が家にいる夜は、たいていは四人で過ごすオレたちだが、たまには用事などで誰かが欠けて、三人になることもある。
その夜は聡が友達の結婚式の二次会に出るということで出掛けたので、佳暁様と護とオレの三人で佳暁様の寝室に入った。
オレが一人でしている姿を見ながら佳暁様と護が繋がった後、佳暁様を真ん中にして三人で時間をかけてじっくりと交わった。
たかぶった体が収まってから、佳暁様を真ん中にして川の字になってベッドに横たわる。
こうして横になる時いつも後ろに感じる聡のぬくもりがないのを何となくさみしく思っていると、佳暁様が「健太」とオレを呼んだ。
「最近ちょっと様子がおかしいね。
何か悩み事でもあるの?」
「えっ?
あー……、えっと、悩み事っていうか……」
「話したくなかったら無理にとは言わないけど、よかったら話してごらん。
話すだけでもちょっとは楽になるし、それに一人で考えて答えが出ないことでも、別の人間の視点で見ると解決する場合もあるよ」
「……それじゃあ、聞いてもらってもいいですか?
実は聡のことなんですけど……。
オレ、いいかげん聡の告白に答えを出さなきゃいけないって思うんですけど、どうすればいいのかわからなくて……」
聡に告白されてからそのことはずっと頭の中にはあったのだが、この前、テレビ電話を使ってしたときから、いっそう早く答えなければと思うようになった。
あの時、画面の向こうには二人がいたとはいえ、実際には聡と二人きりで抱き合い、そしてその後、聡の腕の中で眠って、聡がオレのことを大事に思ってくれているのだということを改めて実感した。
けれども聡がそうやってオレを想ってくれているのに、オレの方は相変わらず聡のことを利用しているだけで、このままではいけないと思うようになったのだ。
だから佳暁様から見てオレが悩んでいるように見えるのならそのことだろうと、先ほどの言葉を口にしたのだが、真剣な顔をしてオレの話を聞いている佳暁様の後ろで、護がなぜか驚いたように目を見開いていた。
「お前……まだ返事してなかったのか」
「う……ごめん……」
自分でも悪いことをしているという自覚があったので、護の言葉に反射的に謝ると、佳暁様が「いや、健太、そうじゃないよ」と言った。
「護はお前のことを責めているわけじゃないよ。
ただ護は、もうとっくに聡と健太は付き合ってるって思ってただけなんだよね?」
「はい、そうです」
二人の会話に、今度はオレの方が驚く。
「えっ! いったいどうやったらそんな誤解を……」
「誤解なのか?
聡はお前のことを溺愛しているし、お前も聡のことを信頼しているようだから、わざわざ俺たちに言っていないだけで、すでに思いが通じ合っているのだとばかり思っていたのだが」
「ええー……、なんでそうなるんだよ……。
それは確かに聡のことは信頼してるけど、それは告白される前からずっとそうだし、好きかどうかとはまた別の話だよ」
「うーん、それ、本当にそうなのかな?」
オレの説明に、佳暁様が首を傾げる。
「僕から見ても、健太は聡のことをちゃんと恋愛の意味で好きなように見えるけれどね。
そうでなければ、あんなふうに聡にすべてをゆだねるみたいにして抱かれたりは出来ないと思うよ?」
「えっ……でもそれは聡がオレのことを一番いい形で佳暁様に見せてくれるって信用しているから安心して任せられるっていうだけで、別に聡のことが好きってわけじゃ……」
「そんなことはないだろう」
オレの説明に、今度は護が反論する。
「佳暁様にお前が感じているところを見せるというだけなら、俺もしているだろう。
だが、お前は俺が触っている時は、聡の時とは全然違うぞ?」
「それはそうだよ。
だって、護はオレのこと最後まで抱くわけじゃないし、聡とは比べられないよ」
「本当にそうか?
前戯だけで比べても、全然反応が違うように見えるんだが」
「えー……そうかな……」
オレが護の言葉を信じられないでいると、佳暁様が口を開いた。
「だったら、一度試しに護と最後までやってみたら?
僕から見たら、護と聡はそれぞれやり方は違うけれど同じくらいセックスが上手いと思うよ。
だから健太が護に抱かれてみて、もし聡の時ほどに感じられなかったら、それはやっぱり二人に対する気持ちの差だっていうことになるでしょ?
どう? 健太。
丁度今日は聡がいないし、今から試してみる?」
「えっ……、で、でも、それって護が困りますよね?
いきなりオレのこと抱けって言われても、好きでもないのに抱けないでしょうし」
「いや……オレの方は問題ないが。
前に言わなかったか?
お前が協力して欲しいなら、たぶん抱くことはできると。
今まではお前も聡も嫌がるだろうと思って最後まではしなかったが、必要ならいつでもできるぞ」
そう言えば忘れていたけれど、オレがまだ四人での関係に踏み出せないでいた時に、護はそう言っていたのだった。
「あの、でも、聡の方はやっぱりオレが護に抱かれたらいやな思いをするんじゃ……。
相手が佳暁様なら、聡はオレが佳暁様を好きなままでいいって言ってますから問題ないですけど、護が相手だとどう思うか……」
「うーん、それはどうだろうね」
と、今度は佳暁様が答える。
「確かに聡はいい気はしないだろうけど、結果的にそれで健太が答えを出せるなら、納得してくれると思うけれどね。
いいかげん、聡の方も焦れてきているだろうし。
……あ、それともやっぱり健太が護に抱かれるのが嫌なの?」
「……いえ、それは別に。
護とは最後まではしたことないですけどいつも触ってもらってるし、それに佳暁様に感じているところを見せるために協力してもらうんだったら、聡でも護でも同じですから」
オレがそう答えると、護が少し考える様子で口を開いた。
「……しかし、どちらにしろ、やるなら聡がいる時の方がいいでしょうね。
あいつは自分の知らないところでやられるより、多少つらくても全てを見届けたがるような気がします」
「ああ、それは確かにそうかもしれないね。
じゃあ、明日、聡に聞いてみてからにしよう。
それで聡が嫌がるならやめればいいし、見たくないと言うなら聡抜きで試してみればいいしね。
健太も、それでいい?」
「……はい」
何となく落ち着かない気持ちになりながらも、それ以上反対する理由も見つからず、オレは結局うなずいた。
「じゃあ、今日はもう寝ようか。
護、電気消して」
佳暁様の言葉に護が「はい」と答え、明かりが消えた。
そうしていつものように、おやすみなさいと挨拶を交わしてから目を閉じたのだが、なぜか無性に背中が寒い気がして、オレはなかなか寝付くことができなかった。
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