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蝶は蜘蛛を手に入れる_肆

 恒宣の前に数枚の春画が置かれている。芳親への土産にと藤がもってきたものだ。 「いらぬと言っただろうが」  見たくないとばかりに背けて持って帰れと言う。 「なんでぇ、新作ばかりそろえてきたってぇのに、芳親さんに渡してくれねぇのかよ」  彼の傍へといき顔を覗き込む。だが、すぐに顔をそむかれてしまう。 「渡さぬ」 「じゃぁ、こいつも……?」  立ち上がり、恒宣の視界に触れるように絵を広げる。  それは窓辺に座り、うちわを扇ぎながら凉をとる恒宣の姿が描かれていた。 「な、何時の間に!」  絵をかっさらい、それを眺める恒宣の頬が赤く染まっていく。 「すごく良い表情してたもんでね」  目を細め、外を眺める姿が色っぽく、目が離せなくなった。  その後、見ていたのに気が付かれて、まぐあったのだが。 「藤春……」 「この絵も、この春画も、皆に見て貰えたなら、嬉しいってもんだ」 「あぁ、そうだな。こんなに良く描いて貰ったのに、な」  すっかり自分の絵に夢中になっている。  藤は口角をあげ、 「じゃぁ、春画は芳親さんに渡して良いよな?」  と春画を筒状にし、恒宣に確認をとるように見せる。 「あぁ、そうだな。見て貰えないのでは絵が可愛そう……、って、藤春、お主、私を丸め込もうとしたな」  あと少しという所で気が付かれた。 「ち、気がついたか」  春画を手に部屋を出ると、恒宣が待たぬかと追いかけてくる。  藤は掴まらぬように芳親の部屋へと向かえば、騒がしいですよと恒宣の母親に怒られた。 「申し訳ありません」  二人は足を止めて背を伸ばし頭を下げる。そして、顔を見合わせて笑みを浮かべた。 【了】

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