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蝶は蜘蛛を手に入れる_參
芳親からだと恒宣の目の前に置くと風呂敷をほどく。重箱の蓋を開けると中には美味そうな料理が詰められていた。
「ほう、こりゃ美味そうだ」
「母上が拵えて下さったようだ」
早速、料理を頂こうということになり、藤は木皿と箸を用意する。
お勧めはこれだよと恒宣が指さしたものを皿へ適当に盛り、口の中へと入れる。
「おっ、うめぇ」
「だろう」
まるで自分の事の様に言うものだから思わず笑ってしまった。
「なんだ」
「いや、本当に仲が良いなと思ってな」
そう、クツクツと笑う藤に。
「なぁ、藤春。私と家族にならぬか?」
なんて、とんでもない事を言い出す。
「はぁ!? 突然、何を言いやがる」
「黒田には離れがあるのだが……、その、好いた者が出来たらそこで暮らせるようにと、な」
頬を染め、藤の様子を窺いながら言う恒宣に、
「馬鹿言うな。おめぇは武家のモンだろうが」
何を言っているのだとばかりに、煮物に箸を伸ばして頬張る。
「うむ。黒田にそんな些細な事を気にする者はおらぬ。だから嫁に来い!」
「ぐふぉっ」
嫁という言葉に、食べていたモノが喉に詰まり激しく咽る。
胸を叩きながら目を白黒させる藤に、恒宣があわてて水を汲んできて手渡してくれた。
「かぁっ、てめぇ、俺を殺す気かよ」
「そんなつもりじゃ……」
「嫁に来いなんて、アホな事をぬかしやがって」
「そうしたら私は幸せだし、藤春には家族が出来るだろう?」
その言葉に驚いて目を見開く。
恒宣は自分に家族を与えようとしてくれているのか。
その気持ちが嬉しくて、目頭が熱くなる。
「なんで俺が嫁なんだよ」
泣き顔は見せたくないので、藤はそう誤魔化した。
「やや、そうかすまぬ。ならば婿に……」
「ありがてぇが嫁にも婿にもいかねぇよ。恒宣の、その想いだけで十分。俺は、幸せモンだぁ」
「そんな」
「だがよ、遠慮なく遊びに行かせて貰うわ」
飯もくいてぇしよと言えば、
「いつでも歓迎するぞ」
と恒宣が笑みを浮かべた。
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