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涼をとる蝶と蜘蛛

 黒田家の離れにある縁側にすわり団扇を扇ぐ。先ほど撒いた打ち水の効果と風もでてきたお陰でそこそこ涼しい。  そこに風呂から上がり手拭で髪を拭いながら恒宣の傍へとやってくる。  身に着けているのはいつもの藤色の着流しではなく、紺色の浴衣であった。  これは父が着ていたものであり、母が藤にと縫い直してくれたのだ。  すこし渋すぎるのではと思っていたが、予想以上によく似合っている。 「どうでぇ?」  と、袖を広げて一回転をする。それを恒宣は満足げに眺める。 「うんうん、よく似合っているぞ」  藤をつれていらっしゃいと母からいわれ、恒宣としては藤が家に来るのは大歓迎なので素直に連れてきたわけなのだが、どうやらはやくこの浴衣を着せたかったのだろう。  新しい物を仕立てるよりも愛情を感じる、藤にもそれが伝わっているようで、浴衣を見てははにかんでいた。 「後で母上に見せてやってくれ」 「あぁ」  大切にするぜと浴衣を撫で、恒宣の隣へと腰を下ろす。  火照った身体の熱をとるために、あわせ衿を大きく開き手で扇いで涼をとる。  ちらりと胸板が見え、つい目を奪われてしまう。藤は男らしく、そして色香があるのだ。  その視線に気がついたのか、目を見開き、そして口角を上げた。 「助平」  藤がわざとらしくあわせ衿を掴んで閉じ、そして身体をくねらせる。 「なっ、けして助平な事を考えていた訳ではっ」  まんまと彼のおふざけに乗せられてしまった。悔しいとばかりに彼の胸へ拳を軽くぶつけると、その手を掴まれて引き寄せられた。 「良いんだぜ、俺ぁおめぇのモンなんだからよ」  愛しい男の顔が息がかかる位に近くにある。胸が高鳴る。  それならばと口づけをすれば、それは次第に深く、舌が絡み合う。 「ん、ふじ、ふじはる……」  涎がたれるのもかまうことなく互いを貪る。そして唇が離れて藤の胸に頬をすりよせた。 「お主が愛おしすぎてどうしよう」  手を伸ばして頬を撫でれば、その手を掴まれ唇へと触れる。 「俺なんか、とうにお前にくるってらぁ」  掌に触れていた唇が手首に口づけ、更に徐々に下へとおちていく。  互いの愛を重ねあい一つになる。それを想うだけで身体の芯が甘く痺れる。  だけど。 「まって」  もう少しだけこのまま甘えていたい。恒宣は藤の背中に腕を回した。 「あぁ」  藤の指が恒宣の髪を梳き、それがとても気持ちいい。  ウットリとした表情で藤を見上げれば、目を細めて口元を綻ばせた。  ちりん、ちりんと風鈴が音を立て、心地よい風が吹く。  肩を寄せ合い、まったりとする。たまにはこんな日も良いものだ。 【了】

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