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第57話

和也がそんな条件を出したのは、剥くだ勃つだの神戸との会話を聞かれていたからだろう。 はっきりいって手を出さない自信はないし、今のところ無償で助けてやる義理もない。 以前勢いで健人の唇を奪ってしまった経緯があるのだから友達で収まるなんて到底無理な話だと思う。 「……その話、保留にしといてくれ。で、筑波先輩は俺に用があるんだよな?」 「おい、保留だと!?保留のまんまお前に健人預けられっかっつーの!」 和也は宗太に食ってかかる。 見兼ねた健人が止めに入った。 「落ち着いて和也。何にしたって和也は今日の放課後俺に付き合えないんだろ。だったら俺は原田に頼みたい」 「……それはそうだけど」 和也がそう言いかけた言葉の終わりに神戸の声が重なった。 「並木先輩っ!俺改めて先輩に話があるんっすよね!ちょっといいっすかー」 神戸は和也に近付いて、和也のうでを鷲掴みにする。 「は?え、何何々……!」 神戸の剛腕に引っ張られ和也は屋上を後にした。 それを見て宗太がハアッと息を吐いた。 「うるせーのがいなくなった。で、先輩の用って?」 「えっと……大したあれじゃないんだけど……」 健人は頼みにくい内容のか、なかなか言い出さない。 「また変な男に絡まれたのか」 「変っていうか、……これって変なのかな」 「ん?」 「今日の放課後、俺に勉強教えてほしいってのがいて、図書室で待ってるみたいなんだ」 宗太の頭に記憶された何かがずるりと引き出された。 ─なんだ……。どっかで聞いた話じゃねぇか……? 男にモテる男子校の……。 いや、ありえねぇ。けど、もしかして……。いやまさか、な。 宗太は自問自答を繰り返す。 そんな偶然あるはずないのに、健人があのケントじゃないかと考えてしまったのだ。 「原田?おい、話聞いてる?」 宗太を下から健人が覗き込む。 「……で、図書室ついてきゃいいのか」 「うん。和也は今日部活のミーティングで俺には付き合えないって。……一緒に行ってくれないか?」 「いいけど。ところであんた頭いい?」 「う……下から数えた方が早いけど……。だから余計に俺に勉強教えろなんておかしいと思ってるんだよ」 宗太は頭の中で白いマス目を一つずつ黒く 塗りつぶす。 健人がケントであることを疑い、その確証を得ようとしていた。 「わかった。放課後図書室な。その前に貰っとくかな、報酬を」 「報酬?」 「当たり前だろ。どんなクエストも報酬がなきゃやんねぇよ」 「クエストって、ゲームじゃないんだから」 健人がははっと笑いながら宗太を見上げる。 ガラス玉のような黒い瞳に吸い込まれそうだ。 宗太は健人が怯えないようにそっと小さなアゴを指で掬って上を向かせた。 何をされるのか気付いたのだろう。 健人は目を大きく見開き口を開いた。 「あ、キ……んっ」 何か抗議される前にと、宗太が唇を重ねる。

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