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Lv.21筑波健人

こんな風に舌を絡めて、まるで恋人がするみたいなキス、おかしい。 ぼうっとする頭で宗太の薄い唇を見詰める。 唾液で濡れた唇が健人をドキドキさせた。 そんな時、宗太に呼ばれた健人のもう一つの名前。 ─ケント。 その言葉を頭で認識すると、心臓がどくんと大きく脈打った。 どうして宗太が、lostworldでの健人名前を知っているのだろう。 そうは思ったが、一瞬にしてそれは宗太の思い違いと気が付いた。 健人という文字は、タケトじゃなくケントと読んでもしっくりくる。 きっと単なる読み間違いだ。 健人はそう自分に言い聞かせた。 まさか数あるlostworldのゲームサーバーの中で、偶然同じ学校の後輩と出会うなんて。 そんなマンガみたいな話あるはずない。 それに宗太がゲームなんかするように見えるのか。 全然そんな風には見えない。 どこからどう見ても、リアルを謳歌している人種だ。 現に健人が読み方の違いを指摘すると宗太は納得したようだった。 やっぱりただの読み間違いだ。 「……ともかく離せよ。報酬だか何だか知らないけどもう済んだんだろ」 宗太の大きな身体はいとも簡単に自分を包み込む。 和也のようなほっとする安心感はないが、間違い無く和也より屈強だ。 それに、何故か健人には自信があった。 宗太は自分に乱暴なことは絶対しないだろうと。 その自信がどこから湧いてくるのか健人にもよくわからなかったが、宗太に対して抱く不思議な感覚。 自分を裏切ることはしないと漠然とそう思った。 時は刻々と過ぎていき、放課後。 図書室は独特の静けさを保っているが、利用者は両手では足りないくらいいた。 健人はそこへ足を踏み入れる。 手紙の主だって、これだけの人目があれば、滅多なことはしないだろう。 健人がわかっているのは後輩の名前だけ。 スラックスのポケットから折り畳んだ手紙を出して開いてみる。 黒川、と文の最後に記されていた。 知らない生徒だが、こっちは知らなくとも向こうは知っている。 もう慣れたことだが、やはり自分の気付かないところで見られているかと思うと気持ちが悪い。 どんな生徒だろうか。 レスリング部部長の時の二の舞は演じたくない。 ざっと辺りを見渡すと健人をじっと見詰める生徒がいた。 健人と目が合うと、カタンと静かに席を立ち会釈した。 健人もまたぺこっと頭を軽く下げそちらへ向かった。 恐らく彼が手紙の主、黒川だ。 黒髪に短髪で制服の乱れもなく第一印象は紛れもない好青年風だった。 目元が少し下がっていて優しそうな雰囲気でもある。 身長は和也と同じくらいだろうか。 175センチくらいだろう。 健人より高いのは間違いない。 健人は黒川のこの真面目そうな外見だけで安心し、すぐに緊張から解放された。 「突然呼び出してすみません。1年5組の黒川です」 「……あぁ、うん。俺は」 「知ってます。筑波健人先輩。俺の憧れの方なんで」

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