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心と心が重なる瞬間
ちらっと隣に視線を向けると、僕の想い人はいつもの元気など見受けられず静かにに歩いている。やはり卒業して仲間達と離れるのが寂しいのだろうか。
大学に進学するのだが、海は地元の私立、僕はまだ合格発表されてないが、どのみち家を出ることになるのは違いなかった。つまり僕達は大学生になれば離れることになるのだ。海とともにいられる地元の大学でも良かった。でもこれ以上一緒にいても不毛な想いを持て余すだけだ。だから離れようと、やっと決めたのだ。
この別れが来たらもう海とは会うことも殆ど無いだろう――合わせる顔がない。何故なら今から僕は、ずっと秘めてきた想いを本人に告げるから。
離れるならあとで引きづらないように、思い残すことを無くしてすっきりしてから行こう。
立ち止まり前を歩くその背中を見つめる。
「海……僕、どうしても伝えたいことかある。」
でも聞いてくれ。これが最後の我儘だから。
海は呼びかけられると立ち止まって、ゆっくりこちらを振り返った。
「……何?急に改まってさ。」
「……あのさ、僕……っ」
ああ、これを伝えてしまったら終わるのか。
前方から向けられる真っ直ぐな視線を受け止めきれず思わず目を伏せる。いざ言うとなると怖くて、口から声が出てこない。心なしか身体も震えている気がする。
ダメだ、言えない。
すると僕の様子を見た海が、こちらへ歩いて近づく足音が聞こえた。僕は何も動けぬままだ。やがて視界に彼のローファーを履いた足が見えた。でもその足取りは止まらず、不思議に思った僕が顔を上げた瞬間、海の顔が間近にあった。腕を引き寄せられたと思えば目の前には人の肩、背中と腰に回る腕が今の状況を物語っていた。
今、僕、海に抱きしめられているのか。
「……海?」
「……てくれ。」
小さくて最初のほうがよく聞こえなくて、え?と聞き返す。抱き締められる腕の力が強まった気がした。
「……大事なことなら、お前の口からちゃんと伝えてくれ。俺、聞きたいよ。聞かないままじゃお前と離れるなんて嫌だ。」
「……っ」
海が、僕を求めてくれている。海を裏切るなんてしたくない。
決心がついたとき、目から自然と涙が零れた。海の肩に手を置いて距離をとりその雫を乱暴に拭うと、僕は海を見据える。迷いはもう無かった。
「僕、海に謝らないといけない。海は長い間ずっと僕の幼馴染として、そして友達として側にいてくれた。でも僕はそんな海のこと、とうの昔に裏切ってるんだ。」
海が目を見開きこちらを見ている。それでも僕は続けた。こんなこと言ってごめんと心の中で謝りながら。
「……僕、海のことがずっと好きだった。だから僕の中じゃ海は、ただの幼馴染で友達じゃない。誰よりも大切な人なんだ。……男からこんなこと言われても困るよね、でも言わせて。僕はどんな形でも海の隣にいられて本当に幸せだった。」
ありがとう。
そこまで言い切ったとき、涙腺に限界がきて目の前が滲み涙が溢れ出てきた。目の前の海がどんな顔をしているのかなんてもうわからない。恐ろしくて前を見られず俯き、ひたすら涙を拭う。
ああ、もうこれで全部終わりだ。そう思い別れを告げて立ち去ろうとしたその時。
「勝手に終わらすなよ馬鹿野郎。」
意志の強い通った声が大きく響いた。恐る恐る顔を前へ向けると、そこには怒った様子の海がこちらをじっと見つめていた。
「どうして自分の中で自己完結しようとするんだよ。俺の気持ちを無視するな。」
海の気持ち……?
「え、あ、やっぱり気持ち悪いよな。大丈夫、責任とってもう会わないようにするから―――」
「違う!そんなことを言ってるんじゃない!」
突然張り上げられた声に思わず肩がビクッと持ち上がった。
海はどこか苦しそうに顔を歪めている。どうしてそんなに辛そうにしているのだろう。よくわからなくて思わずきょとんと見つめる。
「俺がいつ、お前のこと気持ち悪いって言ったんだよ。勝手におもいこもうとするな。だからちゃんと聞けよ?……俺はものすんごく鈍感だからさ、自分の気持ちすら手遅れになりそうになってやっと気づくんだ。」
その瞳は苦しそうだったけど、それでも真っ直ぐ僕を捉えて離さなかった。
「俺も、お前が好きなんだよ、遥斗。」
は……、好き……?俺が……?
告げられた言葉は信じがたいもので、僕を更に混乱させた。
「え、ちょっと待って、本気で言ってるの?」
「ああ。」
「僕の好きって、手繋ぎたいしキスもその先もしたいっていう好きだよ?」
「わかってる。」
本当にわかっているのだろうか。未だに信じられない。でもその真っ直ぐな視線が僕に嘘じゃない、本心だと訴えてくる。
その双眼の輝きがこちらに近づき、手が頬に添えられる。
「一緒にゲイビを見た日、お前がすっごく可愛くて止めてくれなきゃ最後までしてた。そこでちゃんと気づいたんだ。俺はお前と手も繋ぎたいしキスもたくさんしたい。そして深く深く繋がってお前を滅茶苦茶にしたい。それくらいお前が欲しい。」
優しく紡がれる言葉が染み渡って行く。多分、今の僕の顔も心も真っ赤に熟れた林檎だ。
「……本気にしてもいい?」
そう問えば、海は今までで見たことがないような優しい笑みを見せた。
「本気にしないと許さない。……大好きだよ、遥斗。」
僕は海と見つめ合い、頬に添えられた手に己の手を重ねる。涙が溢れて止まらない。でもその意味はさっきとは全く違う。
僕は顔を近づけると、海の唇に己のそれを重ね短く触れるだけの口づけを落とした。そして唇を離し至近距離で見つめれば、囁くように告げたのだった。
「僕も大好きだよ、海。」
そこからすぐに、誰もいないという海の家へ向えば、玄関であるにも関わらずお互いを貪るように求め合った。そのまま海の自室に連れて行かれ雪崩れのようにベッドに倒れ込んで深く深く口づけ合う。
身体を滑っていく手が焦れったくて、でも幸せだった。もう海に以外何もいらない、それくらい気持よくて、嬉しかった。
そして、あの夏に超えられなかった一線を、僕等は超える。
ぐちゅぐちゅと粘着質な音が、仰向けで開かれた足の間から厭らしく響く。そこは長い指を3本咥え、ナカを掻き混ぜられている。
「ん、…はぁ、あ……っ、かいっ、もう挿れて、がまんできない、早くっ」
「ああ……俺ももう限界だ。」
指が抜ける感覚がしたと思えばもっと大きな欲望があてがわれ、ナカを押し開くように侵入してくる。
「あ…っ、う、んん……」
「っ……大丈夫か?」
ある程度入ったところで、気持ちいいのか海が大きく息を吐いた。
僕の方は痛みよりも圧迫感が強くて苦しい。でもそれ以上に、僕の全てが海を欲している。
「だい、じょう、ぶっ、……だから、止めないでっ」
「……っならさ、」
荒く息を上げながら告げた瞬間、耳元で囁かれる。
「俺にだけに見せる顔、見せてよ」
次の瞬間、奥まで一気に貫かれた。
「ああぁぁっ…!」
「……はぁっ、遥斗可愛い。もっと、その顔見せて。」
前を扱かれながらゆっくり抜かれて再び突かれ、だんだんと速まる動きが強い快楽の波へと誘う。
「んぁっ、ああッ…かい、かいっ」
「……っ、可愛いよ、遥斗……はるとっ」
手を伸ばすと海が僕の方へ近づいて、首に腕を回させた。僕はそれに縋り激しく揺さぶられる。登りつめていく感覚が気持よくて、幸せすぎて、達した瞬間欲と一緒に涙が一筋零れた。
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