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一度の過ち
高校2年の夏休み、海にさそわれて久しぶりに彼の家にお邪魔したときの話だ。
「遥斗ってさ、AVとか見たりする?」
突然の爆弾にしばらく固まった。顔から若干熱っぽくなるのがわかる。
「……ほとんど見ないかな。」
少しの沈黙のあと、疑問形ながらも正直に答えた。一応健全に性欲はあるのでそういう類のビデオを見たことがないわけではない。でもそれよりも海とするのを想像して自分でやるほうが圧倒的に興奮した。挿れられたい側なので、目を閉じて自分が彼に組み敷かれている様子を思い浮かべる――首筋を柔らかで湿ったものが辿り、スラリとしながらも男らしい手が僕の素肌を撫ででる。胸の小さな突起に触れれば指先で弄られ捏ね回され、僕の身体は徐々に熱を上げていく。そしてその手が下へ下へと身体を伝っていき、最も敏感な下腹部のソレに触れられ身体はビクッと波打つ――妄想を膨らませながら己の竿を扱いては奥の入り口に指を這わせた。せめて想像の中では海と結ばれたい。そのことを考えるだけで体の奥底からマグマのような熱が湧き出、僕を揺れる波の中へと連れ込む。つまるところ、最低なこととわかっていながら海をオカズにして抜いていたのだった。
僕の返答に海はしばしの間無言でこっちを見つめたあと、自分の携帯を持ち出し弄り始める。そして出てきた画面を僕に見せるようにしながら、すぐ横に詰め寄るように体を寄せてきた。
「これ見ようぜ、ゲイビデオ。」
耳に入った言葉と目に入る画面に、僕は固まった。海はそのまま言葉を続ける。
「俺がそういう趣味持ってるわけじゃないけど、ちょっと気になってさ。でも一人で見る勇気ないからさ、付き合ってよ。」
僕を覗きこむようにして海はこちらを伺うように見つめてくる。すぐそばまで迫る端麗な顔。
距離が近い。しかも一緒にAVを見る?
僕の心臓は今にも爆発寸前と言っていいほど脈打っていた。こんなことしたら、ちょっとどころではなくやばい、いろいろやばい。
それでも断わり切れなくて、仕方なくいいよと答えた。
初めて見るゲイビデオは、思っていたよりも生々しくて僕を興奮させるには十分だった。後ろの秘部を使って行う行為を見る中ですぐ隣に想い人がいる、その事実が僕を限りなく追い詰め昂ぶらせた。だから僕の分身も興奮を耐えるなんて最初から無理な話であり、やばいと思った頃には手遅れだった。
「興奮してるの?」
不自然に盛り上がる己のズボン、それを見た海が僕を見る。バレた、と思い膨らみを隠すように急いで背を向ける。背後でフッと息を漏らす音が聞こえた。やっぱりゲイビで興奮なんて気持ち悪いだろうか。怖くなって身体を強張らせたその時。耳元で海の息遣いが大きく響いた。
「辛いなら、俺が楽にしてあげる。」
え、と思わず声を漏らしたときには既に海は僕の正面に回り込んでいて、熱を孕んだ瞳が目の前に迫っていた。肩を押され抵抗する間もなく、僕はカーペットを背にして足を開かされていた。そこでやっと我に返り、慌てて起き上がろうと藻掻く。
「ちょ、待って!何してるの!?」
「え、そりゃ遥斗の遥斗を可愛がってやろうとしてるだけだけど?」
「だけじゃないよ!」
口でも対抗するが、それでも海は上にのしかかるのをやめようとしない。両手首を捉え床に貼り付ければ、深い輝きを灯した瞳と目が合った。
「大丈夫、痛いことはしないよ。だからさ、……俺に全部任せて?」
その言葉で、僕の中の何かが弾け飛んだ。
女みたいに開かれた足と足の間に入り込み、ボクサーの上から撫でるように滑る掌。海に触れられるだけで満たされ、口から熱っぽい吐息を漏らす。ボクサーに海の手がかかれば、赤く熟れた欲望が飛び出した。
「綺麗だな、お前の。」
その欲望を優しく愛撫しながら、海は至近距離でソレを見つめた。その視線、声、かかる吐息の全てが僕の感覚を揺さぶってくる。
「ん……は、」
ああ、思い描いていた想像が、今確かに現実となっているのだ。
すごく恥ずかしいのに、その事実だけでそんなことはどうでも良くなった。
大きな掌がソレを包むように握り、先走りを絡めて馴染ませるようにして上下にゆっくり、そしてだんだん早く扱いていく。甘い刺激が僕を襲い乱していく。
「や、っ…んッは、」
「遥斗、きもちい?」
海の問いかけに頷くことしかできず、余裕のない中で快楽の波に溺れていく。一人で処理するのとは比べ物にならない快感に、自分のものとは思えないような艶めかしい声を上げてそれを受け止めた。それだけでは終わらず、突如熱く湿ったものに自身が包まれる感覚がして下に目を向けた。瞬間、目を疑うような光景に僕は目を見開いた。
海が僕の自身を口で咥えている。
「あ、ばか、何して……あっ」
驚きで再び固まる僕を無視して、海は
咥え続けたまま強く吸われ舐められた。ぬちゅっと卑猥な音が響く。内腿を手でなぞられ、舌がカタチを辿るように動いたと思えば、カリの部分と先端をグリグリと弄られ強い快感に声を我慢できず漏らしてしまう。
「う、あぁッ、やっ」
止めさせるべきなのに次々と襲い来る快感の波に、淫らに喘ぐしかできなくて。無意識に腰が動きもっと欲しいと強請ってしまう。更に強く上下に刺激され、もう何も考えられなかった。
「かい、もう、はなれて…イク……ッ」
しかし、離れろと言ったのにそれどころか、海は余計口での愛撫を早めた。頂まで駆け上がっていく感覚にもう何もかも崩れ去り、身体をしならせ声を上げて海の口の中に欲を放った。
「ん、ッあぁっ……!」
「……っ」
直後、イッた衝撃で身体は重かったが頭は冴えてきて、ある程度の理性を取り戻すのには十分だった。
恥ずかしくて死にそうだ。しかも口の中に出すなんて……。
海に大丈夫かと声をかけようとして目を向けると、呆然とこちらを見つめている。ティッシュも何も持ってないってことは、もしかして呑み込んだのか。真面目に死にたい。
僕が内心悶え死にそうになっている中、海は再び覆いかぶさってきた。
「海……?」
「……」
海は何も言わず無言だったが、瞳の中は熱を孕みギラギラと輝いたままだった。そして僕の両足を持ち上げ開かせたと思えば、その足に硬いものが押し付けられる。
海も興奮してる…?さっきの動画に当てられたのかな。それとも……
それ以上考えさせてはくれなかった。僕のまだ少し元気な欲望の更に奥、その入り口に触れられたのだ。さすがに驚いて、慌ててその手を掴む。
恐らく、今の僕は真っ赤に震えて情けない顔をしているだろう。今までずっと望んでいたことではある、しかし今にも切れてしまいそうな理性が僕を動かした。
「やめて、それだけは……」
本当はもっと海を求め僕の中に入って、僕の中を海で一杯にして欲しい。でもそんなことをしたらきっと今までの関係には戻れなくなる、今度こそ離れないといけなくなる。
手を掴まれ止められた海は、数回瞬きをしたあと慌てた様子で唐突に僕から離れ後ずさりした。そして立ち上がると、ごめん、という一言を残して部屋を出て行った。
夏休みなので次の日は顔を合わせずに済むかと思いきや、母親のお使いで駆りだされることとなった。さすがに海は玄関混でこないかと思いきや、インターホンを押して出てきたのは海で、かなり気まずかった。でも気まずいままじゃ嫌でいつも通り話そうと務めたおかげで、次会うときからはすっかりいつも通りだった。まるであんなことなど一切無かったというように。
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