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第146話
『手を出さない』
その言葉通り、確かに手で触れてはいない。いないのに、視線の動きだけで愛撫されているようなおかしな感覚が沸き上がってくる。
「っ…、もういいですか」
「まだだ」
圭史さんは僕に後ろを向くよう促す。
「上脱げよ」
スーツ、皺になるだろう? と彼は言う。
「狭いから…」
脱ぐのが大変だからと断る僕に、圭史さんの声は低くなる。
「見せられないのか」
「そんなこと…」
言い淀む僕に圭史さんの視線がより一層剣呑なものになる。
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