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第161話
「玲」
頭の上から降ってきた声に、僕はゆるゆると視線だけを向ける。
目が合った圭史さんは、慰めているような慈愛に満ちたようなそんな表情を僕に向けた。
『玲?』
扉の向こうから再度自分を呼ぶ声がして、動けない僕に変わって圭史さんが動く。
止めなければ、だって僕は決めたはずだ。そう思うのに体が動いてくれない。
そして、無情にも扉は開いてしまったのだった。
扉の向こうに立っている人物は僕を見降ろす。その底冷えのするような視線に僕は震える。
彼は僕に何も言うこと無く、次に圭史さんに視線を移す。
「手を出さないんじゃなかった?」
「手は出してねえよ? なあ、玲」
その問いに僕はどう答えればいいのか。
決まっている。
「…僕、が…」
「ん?」
「僕がやらせてもらっただけ、です」
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