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第162話

 それだけ言うと、震える脚を叱咤して立ち上がる。 「どこに行くの?」 「…会社、戻ります」  さすがにこれ以上ここに留まるのはまずい。でも出口には彼がいる。 「えー、圭史は良くて俺は相手してくれないの?」  口を尖らせてそういう返事が返ってきてどこかでやっぱりと思う自分がいた。  彼は僕をタダでは帰してくれそうにない。 「後で必ず都合をつけます。ですから…お願いします」  その場限りの時間稼ぎだ。でも、今はこうするしかない。 「ふぅん、じゃあこの遊びはやめて別のにする?」 「え…」  僕は彼の言葉の意味が分からなかった。 「なあ、圭史。もう俺飽きたんだけど」  僕は彼が言う遊びという意味が指すものを理解して思わず声を上げる。 「待ってください!」  このままでは馨との関係が続けられなくなってしまう。そんなの嫌だ。 「ま、まだ時間はあるはずです!」  約束の期限はまだ来ていない。 「えー、だって俺つまんないし、仲間外れにされるの悲しいし」  もう泣いちゃうかも、なんてジェスチャーをする彼に僕は焦る。  彼の機嫌を直すには、彼の言うことを聞く以外にはなさそうだ。

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